2015-03-04(Wed)

「21世紀の資本」(トマ・ピケティ著)を巡る議論続く

富める者はさらに富み、資本主義に任せれば格差が開く
格差是正へ 預金や株、不動産を持つ人に資産額に応じた税金を


----フランスの経済学者、トマ・ピケティ教授の著書「21世紀の資本」を巡る議論が続いている。今年1月の来日をきっかけに、テレビや雑誌なども取り上げ、関心を持つ層の裾野も広がっている。

『私は今後、相続資産がものをいう不平等な社会が復活していくと思う。』

格差を縮めるにはインフレも効果がある。公的債務を減らす作用も大きい。ただ、私は累進課税が最も文明的な格差是正の手法だと考える。』

『日本ばかりでなく多くの国で企業は内部留保をためている。家計と企業を合わせた民間の富は著しく増加している。一方で政府など公的部門の富は減少している。日本はその典型ということなのだ。』
(日経新聞)

---なぜ格差是正しなければいけないのか。どうすれば小さくできるのか。
 世襲財産のあるものだけが豊かになるなら、どんなに頑張っても報われない世の中になります。富裕層は政治的な発言力が強く、公平や平等が土台の民主主義が揺らぎかねません。低成長の日本や欧州では若者にしわ寄せがいき、正社員として就職も結婚もできず、住宅も買えない苦境に陥ります。
 
処方箋です。ピケティ教授は預金や株、不動産を持つ人に資産額に応じた税金を、税逃れができないよう世界共通で課す「グローバル累進資本税」を提案しています。ただ、富裕層の強い抵抗が予想されます。実現は簡単ではないでしょう。相続税や所得税の累進強化以外にも処方箋を示しています。所得増につながる経済成長、賃上げを伴った緩やかなインフレ政策、社会保障や教育などです。
(東京新聞)


以下引用

日本経済新聞 2015/3/2 18:00
超サクッ!ニュースまとめ
ピケティ教授、改めて学ぶその考え
 フランスの経済学者、トマ・ピケティ教授の著書「21世紀の資本」を巡る議論が続いている。今年1月の来日をきっかけに、テレビや雑誌なども取り上げ、関心を持つ層の裾野も広がっている。
■ピケティ氏 日本で語る、日本を語る
『「21世紀の資本」の著者であるパリ経済学校のトマ・ピケティ教授が1月31日、東大で講義し、「不平等、格差の拡大は民主主義を脅威にさらす」と格差問題に警鐘を鳴らした。』
『私は今後、相続資産がものをいう不平等な社会が復活していくと思う。』
格差を縮めるにはインフレも効果がある。公的債務を減らす作用も大きい。ただ、私は累進課税が最も文明的な格差是正の手法だと考える。』
格差は民主主義の脅威」 ピケティ教授、東大生に語る(2月1日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82652790R30C15A1000000/
『日本ばかりでなく多くの国で企業は内部留保をためている。家計と企業を合わせた民間の富は著しく増加している。一方で政府など公的部門の富は減少している。日本はその典型ということなのだ。』
『日本は民間資本が多いのだから、資本に対する累進課税を進めることは、理にかなっているはずだ。』
 日本のじり貧の流れは逆転可能なのか。
『物価を反転上昇させ、出生数増加により人口を増やす必要がある。』
資本主義を生かすために トマ・ピケティ氏に聞く(2月1日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82651470R30C15A1TY6000/
■識者らが解説・点検
 池上彰さんはこう解説する。
『マルクスが言う「資本」とピケティ氏の「資本」とは内容が異なります。マルクスの資本は、生産手段のこと。資本家が所有する工場などを指します。これに対して、ピケティ氏の資本には利息や配当金、貸出料などの収入も含まれます。いわば資産と言った方が実態に近いのです。資産家ほど財産が増え、その財産を相続で子孫が受け継ぎ、富める者はますます富む。わかりやすい理論です。』
ピケティ・ブームを考える(3月2日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO83647150V20C15A2000000/
 平田育夫・本社コラムニストが日本の状況を踏まえて、ピケティ氏の説を点検した。
『米国では上位1%の高所得層が今や国民所得の約2割を稼ぐ。その税負担を増やすのは格差是正に意味があるかもしれない。ひるがえって日本では1%の富裕層の取り分は1割弱だ。』
『だから高所得層だけを増税しても税収の増加は限られ、貧困対策や社会保障に回す余裕もあまり出ない。』
『格差拡大の原因をめぐる教授の研究は目新しいが、その是正策ではピケティ先生の教えをうのみにせず、国情を踏まえて考えたい。』
ピケティさんの教え、日本への処方箋に違和感(3月2日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO83812500Y5A220C1TCR000/
 オリックスの宮内義彦シニア・チェアマンは、社会正義という言葉で、ピケティ氏を理解する。
『新しい社会正義を何とか確立すべきだと思う熱意が伝わってきます。そのためにはやはり制度そのものを変えなければならない。タックスヘイブン等を利用する節税は不正行為だということで世界が合意して、その同じ土俵で競い合うことが「新しい資本主義」ということになるのでしょうが、ちょっと考えただけでもその実現には相当困難と時間を伴うように感じます。』
ピケティ「21世紀の資本」が問う課題(2014年12月5日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO80488150U4A201C1000000/
『統計学的な観点からみた場合、1%への集中は富の分布における右端の裾野が広いという議論である。これに対して、最近日本で問題になっている相対的貧困率(大多数よりも貧しい者の全人口に占める比率)の上昇は、低所得者の数が増えているという指摘であり、所得分布で言えば左端の裾野が広がっていることを意味する。日本では、一部の大金持ちの存在より、高齢者の貧困、不安定な若者の雇用、母子家庭の増加などが、格差拡大を考えるうえでより重要といえる。』
ピケティの格差、日本の格差(大機小機)(2月21日)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO83488530Q5A220C1EN2000/
■書評から
『話題は税制から金融危機、バブル、インフレ、経済成長、人口動態、教育、環境、政治体制に及び、資料には19世紀の小説も含まれ、随所に通説に挑戦する著者の鋭い見解がみられる。高給を得る経営者の生産性は高くはなく、レーガン、サッチャー改革は言われているほど成長を促したわけではなく、起業精神で格差を正当化する議論は疑わしいという。』
21世紀の資本 トマ・ピケティ著(2014年12月21日)
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO81163050Q4A221C1MZA001/


日本経済新聞 電子版2015/3/2 3:30
ピケティさんの教え、日本への処方箋に違和感(核心)
本社コラムニスト 平田育夫
 日ごろ割り切れない思いを抱く人々の琴線に触れたのだろう。所得や資産の格差拡大をめぐる仏経済学者トマ・ピケティ教授の言説が関心を集めている。
 富める者はさらに富み、資本主義に任せれば格差が開く――。300年の統計に基づく分析は衝撃的だ。
 しかし格差是正へ教授が示す処方箋には、日本の実情にそぐわないものも少なくない。今後、この国でも影響力を増しそうな人だけにここはひと言あるべし。
 日本でも格差は広がり、軽視できない問題だ。だがひどい状態にある財政を再建しながら格差を縮める難しさがある。格差の原因も欧米と同じではない。日本の事情を踏まえつつピケティ説に耳を傾けたい。
 その著書「21世紀の資本」によれば、株式や貸家などへの投資の収益率は賃金の伸びより高い。だから資産家は勤労者を上回る速さで豊かになり格差が開く。また米国などで高い報酬を得る大企業経営者が台頭し格差をさらに広げている。
 そんな見立てに基づいて教授が標的とするのは「資産」と「高所得層」だ。
 ▼事業用を含む各種個人資産に毎年課税する「世界的な資本税」を導入する。
 これは各国の同意がないと困難。日本の経済成長のため極めて大切な投資に水を差す恐れもあろう。
 ▼所得税の最高税率を先進国は80%以上にするなど累進制(所得に応じ高い税率を適用)を強める。
 30年ほど前、米国や英国は経済活性化のため高所得層の所得税率を下げた。また米国では株式の売却で所得の大半を稼ぐ人もいるがその税率は富裕層で23.8%と低い。大富豪のウォーレン・バフェット氏が「私の税率は秘書より低い」と述べ話題を呼んだ。
 米国では上位1%の高所得層が今や国民所得の約2割を稼ぐ。その税負担を増やすのは格差是正に意味があるかもしれない。
 ひるがえって日本では1%の富裕層の取り分は1割弱だ。所得格差が開いた原因としては富裕層の増加よりも、長期不況や中国・韓国との競争、非正規社員の増加などで低所得者の割合が増えた影響が大きい。
 だから高所得層だけを増税しても税収の増加は限られ、貧困対策や社会保障に回す余裕もあまり出ない。
 むしろ日本では「中間層の人々を含めた負担増が欠かせない」と国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏は指摘する(本紙2月12日付「経済教室」)。この問題の核心だろう。
 日本の所得課税は給与年収が1千万円強までは欧米より軽いので、中間層の所得税増税も一案。だが所得把握の難しさも考えれば、まずは低所得者への本格的な負担緩和策を前提にした消費税の10%超への増税を考えるべきだ。中間層以上の負担を増し、財政再建と格差緩和につながる。
 一方、格差拡大で重みが増す社会保障を、財政難のなかでどう維持するのか。教授は4年前、自国の制度についてこう提案した。
 ▼社会保険税と所得税を統合し新税を創設する。
 そのミソは資産が生む所得からも効率的に財源を得られる点らしい。収入増を軸にした考え方のようだ。
 日本の場合は働き手が減って保険料収入は伸びないのに社会保障給付は年3兆~4兆円も増える。このため消費増税だけでは賄えず中高所得層中心に給付の抑制が重要になる。年金については所得が多めの受給者の所得税負担を増やし、増収分を年金財政に戻す手も。実質的な給付抑制だ。
 「所得の低い勤労者が社会保障を通じ豊かな高齢者をも支えているのは問題」と森信茂樹・中央大学教授。中間層を含め比較的余裕がある人すべてに、給付抑制中心の負担を求めざるを得ない。
 ピケティ氏はまた、賃上げによる成長促進を安倍政権に説く。だが……。
 ▼「政府は率先して公務員の賃金を上げるべきだ」(本紙2月1日付)
 これは驚きのご託宣。日本では人事院が民間給与を参考に公務員給与を勧告する。参考にするのは従業員50人以上の企業だけ。このため「公務員給与は高すぎる」との批判が根強い。
 フランスの学者に日本の人事院のやり方を知れというのも酷だが、財政難の折に進んで公務員の賃上げをという意見には戸惑う。
 氏は財政赤字や公的債務の膨張を我々ほど深刻にみていないようにも思える。
 ▼「物価上昇なしに公的債務を減らすのは難しい。(日本は)2~4%程度の物価上昇を恐れるべきではない。(昨年)4月の消費増税はいい決断とはいえず景気後退につながった」(本紙昨年12月22日付)
 著書によれば、一定規模以上の資産への一時的課税も債務軽減に有効という。反対に歳出の削減については、英国が19世紀に歳出削減を続けた結果、教育費が減り衰退につながった例をあげ、その弊害を説く。
 勤労者への影響を少なくという意図は分かるが、重い資産課税ともなれば資本は海外に逃げる。厳しい歳出削減や消費増税なしに債務問題は解決しない。
 日本は狭い道を進むしかない。税財政に頼らず、同一労働・同一賃金や、地方企業の経営改善、教育改革など所得の底上げにつながる政策も急ぐべきだ。
 格差拡大の原因をめぐる教授の研究は目新しいが、その是正策ではピケティ先生の教えをうのみにせず、国情を踏まえて考えたい。


東京新聞 2015年2月8日
【社説】週のはじめに考える ピケティと暮らしの明日
 話題の本「21世紀の資本」のトマ・ピケティ教授が来日しました。「格差の拡大」を歴史的な事実として示した研究には、問いかけがいっぱいです。
 一月三十一日、東京・内幸町で開かれた記者会見には三百人以上が集まりました。主催の日本記者クラブによると過去、フランス人ではミッテラン、シラクという二人の大統領に並ぶ数です。
 ピケティ教授は四十三歳。数日間の滞在でしたが、講演や記者会見、インタビューに精力的に応じました。格差是正の大切さを訴える熱意と若さは、国会の論戦にも波及します。
◆トリクルダウンを否定
 二十九日、民主党の長妻昭議員に格差問題や成長に偏った経済政策を追及された安倍晋三首相は「ピケティ氏も経済成長を否定していない。成長せずに分配だけを考えればじり貧になる」と持論を展開しました。
 トリクルダウンに質問が及んだ今月二日の論戦では「われわれが行っている政策とは違う。上からたらたら垂らしていくのではなく、全体をしっかりと底上げしていくのが私たちの政策だ」と反論しました。
 法人税減税など大企業の利益を重視した政策は、富めるものが富めば下へと富がしたたり落ちるトリクルダウンと受け止められています。しかし安倍首相はその見方を強く否定しました。歴史的な事実として「トリクルダウンはない」というピケティ教授の研究成果を意識したのかもしれません。
 教授とその著書がこれほど注目されるのはなぜでしょうか。
 経済が順調に成長すれば、所得や資産という富の格差は自然に縮まる。手に入れやすい二十世紀前半のデータに基づくこれまでの経済理論です。トリクルダウンに近い考え方かもしれません。
◆頑張っても報われない
 ところが、ピケティ教授らは十五年かけて世界の税務データを約二百年分集め、詳細に調べた。するとそうではなかった。二度の大戦があった二十世紀前半は例外で、富の格差は拡大していくとデータが示したのです。
 金持ちはますます金持ちになり、貧乏人はよほどの幸運がない限り浮かび上がれない…多くが抱いている実感で、特に目新しくないと思う人がいるかもしれません。頑張って働き、お金を貯(た)めて、再投資してさらに増やす。その遺産を血の繋(つな)がった子どもに引き継ぐ…そのどこが悪いのかという反論もありそうです。
 なぜ格差は是正しなければいけないのか。どうすれば小さくできるのか。
 世襲財産のあるものだけが豊かになるなら、どんなに頑張っても報われない世の中になります。富裕層は政治的な発言力が強く、公平や平等が土台の民主主義が揺らぎかねません。低成長の日本や欧州では若者にしわ寄せがいき、正社員として就職も結婚もできず、住宅も買えない苦境に陥ります。
 処方箋です。ピケティ教授は預金や株、不動産を持つ人に資産額に応じた税金を、税逃れができないよう世界共通で課す「グローバル累進資本税」を提案しています。ただ、富裕層の強い抵抗が予想されます。実現は簡単ではないでしょう。相続税や所得税の累進強化以外にも処方箋を示しています。所得増につながる経済成長、賃上げを伴った緩やかなインフレ政策、社会保障や教育などです。
 さて戦後七十年の日本です。戦争への反省と高度成長、二十年の停滞と少子高齢化、格差の拡大という現実を見詰め、どんな日本にしていくのか。暮らしの明日を議論し、方向を見定める節目の年です。
 「日本再生」を掲げる安倍首相は戦後レジームからの脱却、アベノミクスによる経済成長を目指しています。ただ、アベノミクスの現状を評価すれば、必ずしもうまくいっていない。株価上昇の恩恵を受ける層がいる一方で、実質賃金は下がり、成長率はマイナスで所得の格差は広がる一方です。
◆格差は成長を損なう
 実はもう一つ、大きな反響を呼んでいる文書があります。昨年十二月、経済協力開発機構(OECD)が発表したリポート「格差と成長」です。OECDの調査と分析で、所得格差が拡大すると経済成長が低下することを明らかにし「格差問題に取り組めば社会を公平化し、経済を成長させ強固にできる」と記しているのです。
 景気の好循環が実現するのか、失速するのか。アベノミクスの成否は遠からず判明します。
 もし安倍首相が明言した「全体の底上げ」がうまくいかず、失政が明らかになった時には、ピケティ教授やOECDのリポートが示す道、格差是正による経済成長に取り組んでほしいものです。


日本経済新聞 電子版 2015/2/1付
資本主義を生かすために トマ・ピケティ氏に聞く
 先進国の所得や富の格差は20世紀初めの水準まで広がっている――。膨大な歴史データを基に、そんな姿を示したパリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏が世界中で話題を呼んでいる。相次ぐ金融危機や成長鈍化で人々の不満が募る中で、資本主義や市場経済を生かすにはどうすればよいか。日本が直面する課題にどう対処すべきか。ピケティ氏に診断を聞いた。
■富の透明性高め格差縮小
 ――「資本収益率(r)は経済成長率(g)を上回る」。このシンプルな不等式から格差を説明する理論が反響を呼んでいます。
 「産業革命を経た19世紀には、当時の先進国の経済成長率は年1~2%だったが、資本収益率は年6~7%に高まった。20世紀には2つの大戦やインフレで、資本が毀損した。半面、戦後の復興などで経済成長率は大いに高まった」
 「今や我々は低成長の世界に舞い戻った。経済運営を改善すれば年1~2%の成長を実現できようが、戦後のような5%成長は無理だ。一方、株式、不動産などからのあがりである資本収益率はあまり変わっていない。その結果、富の集中が起きやすくなっている」
 Thomas Piketty フランスの経済学者。所得や資本の分配と格差の動向を巨視的に分析した「21世紀の資本」の著者。700ページを超える大著ながら、巧みな筆致で読者をとらえ、世界中で150万部を超えるベストセラーに。仏紙の時評をまとめた「トマ・ピケティの新・資本論」も出版。
 仏社会科学高等研究院で経済学を修め、博士号を取得後に米マサチューセッツ工科大学で教える。仏帰国後、経済を歴史的な政治・社会変動と関連づけ、分析することを目指している。
 政治的にはリベラルだが、単に格差是正を訴えるのではなく、その手法は徹底した実証主義。税や相続の膨大な原データを実に3世紀にわたって分析し、事実をもって説得する。43歳
 ――成長のための投資が必要なら、資本がリスクに見合うプレミアム(収益の上乗せ)を求めるのは当然ではありませんか。
 「資本のすべてがそうしたリスクをとっているわけではない。資本全体の収益率が経済成長率を上回っていることを、リスクテークだけで説明するのは無理がある。もちろん、リスクをとる動きが広まれば、資本収益率と経済成長率の開きは広がるかもしれないが」
 ――IT化の進展で機械が人間の労働に置き換わっている結果、資本の力が強まっている側面は。
 「主な先進国では国民所得に対する資本の比率が上昇し、資本収益率も高まっている。資本集約的な技術の発展が一つの理由とされる。米アマゾン・ドット・コムが無人飛行機(ドローン)を発表したが、極端なケースはロボットが人間にとって代わる世界だろう」
 「ひょっとすると、2030年はロボット社会になっているかもしれない。ただし現時点では、不動産やエネルギーなどのセクターの台頭の方が、重要な意味を持っている。これらの産業は資本集約的だからだ」
 ――資本は産業活動に投資されるばかりでなく、ますます金融の世界で動き回るようになりました。
 「金融の機能は貯蓄を最も収益性の高い生産的なビジネスに向けること。教科書にはそう書いてあるが、現実は違う。金融規制の緩和を進めた結果、金融部門の投資と実体経済に直接の結びつきがなくなってしまった。大口投資家は高度な運用手法を駆使して高収益を上げられるが、小口の投資家はそうではない」
 「投資を呼び込もうとする国々の税率下げ競争も、資本収益率の向上を促してきた。極端な税逃れの資本移動の横行は目に余り、国際的な規制や制裁が試みられるようになっている。各国は協調してこうした行動に弾みをつけるべきだ」
 ――そもそも格差のどこが最も問題なのでしょう。
 「企業経営者に年1千万ドル(約12億円)もの報酬を払うことが、国全体の雇用創出に役立つだろうか。ある程度の格差はイノベーション(革新)ややる気を引き出すために必要だとしても、所得や富の少ない層が固定化するのは、経済にとって大きなマイナスだ。しかも社会の流動性が低下し発言力や政治的影響力に差が出ることは、民主主義にとって深刻な事態だ」
 ――資本主義に否定的だとの誤解もありますね。
 「とんでもない。1971年生まれの私は、冷戦後世代に属していると思う。89年のベルリンの壁崩壊を目の当たりにしているだけに、ソ連型の共産主義には何の魅力も感じない」
 「私の本を読んでもらえば、反資本主義などではないと分かるはずだ。私は私有財産制を支持するし、市場やグローバリゼーションの効能を信じている。同時に強力な民主主義制度が必要だし、富の透明性が必要だ。市場や資本の力は大変に強いので、革新をもたらす一方で、極端な所得や富の集中も招いてしまう。資本への累進課税を提案しているのは、その是正策だ」
 ――成長を否定しているわけではないですよね。
 「私は成長を否定したりなどしていない。それどころか、成長は重要であり、高めることを望んでいる。そのためには、大学への投資、一層の革新や生産性の向上、人口の増加が重要になる。とくに日本やドイツでは生産性と並んで、人口の問題が大きな政策課題となる。成長促進のためには、様々な策をとるべきだ」
 「ただし、先進国は年5%成長に戻れない。長期的には年1~2%だろう。それもまた事実なのだ。戦後の高成長期に戻れると思うのは幻想で、現実の成長に合わせたプランB(代替策)を考えるべきだ」
■日本、賃金と人口増カギ
 ――日本の場合、米国のように一部の富裕層への所得や富の集中が真の問題なのでしょうか。企業がおカネをため込んでいる方が、問題だと思うのですが。
 「忘れてならないのは、企業は主に家計によって所有されている存在だということだ。日本ばかりでなく多くの国で企業は内部留保をためている。家計と企業を合わせた民間の富は著しく増加している。一方で政府など公的部門の富は減少している。日本はその典型ということなのだ」
 「ここ10年、公的部門の負債増加ばかり議論されてきたが、半面で民間部門の資本の増加はもっと大きかった。主な先進国では今や民間資本は国民所得の4~7年分になっている。経済全体としてみると、民間の財産に適切に課税すれば、政府の負債を支えられる」
 ――日本では高齢者に金融資産が集中しています。世代間の格差については。
 「財産が固定して動かないと、新しい世代が困難に直面する。例えば不動産の取得が難しくなる。課題は税制を若い世代に有利なものに変えることだ。勤労所得に対する課税、とりわけ中低所得の人たちの税負担を減らす。一方で、不動産や資産への課税を増やす。日本は民間資本が多いのだから、資本に対する累進課税を進めることは、理にかなっているはずだ」
 ――成長抜きの分配は考えにくいと思いますが、日本の場合は名目国内総生産(GDP)がピークより40兆円も縮んでいるのです。
 「(グラフを手にして)名目GDPの長期にわたる縮小には大変驚かされ興味深い。19世紀末の英国が想起される。当時の英国はデフレに直面し、非常に大きな政府債務を負っていた」
 ――日本は1997年の金融危機をきっかけに、デフレの局面に入りました。
 「19世紀の英国が経験していない現象を挙げれば、日本の場合には人口減だろう。1人当たりGDPは上昇しているかもしれないが、人口減少が響き、経済規模が収縮したのだ。物価の下落に加えて、労働力人口が減少したこの組み合わせはとてもユニークだ」
 ――じり貧の流れは逆転可能だと思いますか。
 「2つのポイントがある。物価の下落と人口の減少だ。物価を反転上昇させ、出生数増加により人口を増やす必要がある。この2つは別の課題だ。物価の問題についていえば、中央銀行がお札を刷り金融機関に貸し出すことで、インフレをつくり出すことは可能だ」
 「これはインフレの必要条件だが、十分条件とはいえない。お札を刷るだけでは、消費や設備投資に回る保証はない。消費者物価の上昇ではなく、資産インフレを招きかねない。安倍政権の経済政策『アベノミクス』は株式や不動産のバブルを生むリスクをはらんでいる。肝心の物価の上昇を実現するには、金融を緩和すると同時に賃金の上昇を果たす必要がある」
 ――安倍政権は金融緩和だけでなく、賃上げ実現にも力を入れています。
 「実際の賃上げの幅はどのくらいなのか。そして政府部門の賃金はどうか」
 ――大手企業では昨年は2%くらいです。昨年は公務員の給与カットをやめました。今年は民間の後を追い賃上げに動くでしょう。
 「それでは不十分だと思う。もしデフレに終止符を打ち、インフレに転換したいなら、政府は民間の後を追うのではなく、率先して公務員の賃金を上げるべきだ。消費税増税の分を除いた消費者物価上昇率が、1%を下回っているというのはやはり低い。思い切った措置が必要だろう」
 ――出生数については。
 「男女平等で、家庭支援的な仕組みが必要だ。おかげでスウェーデンやフランスは出生率が2程度にまで回復している。半面、ドイツやイタリアは出生率が低いなど、欧州でばらつきがある。出生数の回復は施策を講じても成果が出るまで時間がかかるので、短期的には賃金増によるインフレ実現の方が重要だ」

■聞き手から
 ピケティ氏は日本でも熱狂的に迎えられた。世界が低成長時代に入れば資本を持つ者と持たざる者の格差は広がる。市場経済では格差拡大を予定調和的に制御する力が働かない、という。
 主張の肝は「資本収益率は経済成長率を上回る」との命題だ。雪だるまのように資本が積み上がり、格差が広がっていく。そうした事態を防ぐには、各国が足並みをそろえて資本に累進課税すべきだと提案する。
 だが資本が収益を求めリスクをとるからこそ、経済が成長するという側面も見逃せない。資本を眠ったままにさせず、どうやって成長につなげるか。この課題は相当な難問である。
 格差是正を求める論者は、しばしば反成長を唱える。それとは一線を画し、ピケティ氏は成長の重要性を否定しない。
 長期の経済停滞が格差拡大を招いた日本でこの点を確認するのはとても大切だ。教育や就職の機会を広げ格差の固定化を防ぐ努力と、経済成長は決して矛盾しない。それどころか、経済停滞を打ち破ることが、日本では格差是正の第一歩といえる。
(編集委員 滝田洋一)

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