2016-11-12(Sat)

米トランプ大統領の衝撃広がる (1)危機に立つ米国の価値観

社会の亀裂映す 世界の漂流を懸念する 保護主義は全世界の不利益 「トランプ・リスク」は不可避

<各紙社説・主張>

朝日新聞)トランプ氏の勝利 危機に立つ米国の価値観(11/10)
朝日新聞)「トランプ大統領」の衝撃 保護主義に利はない(11/11)
朝日新聞)「トランプ大統領」の衝撃 地域安定へ試練のとき(11/11)
読売新聞)米大統領選 トランプ氏勝利の衝撃広がる(11/10)
読売新聞)トランプ経済策 保護主義は全世界の不利益だ(11/11)

毎日新聞)米大統領にトランプ氏 世界の漂流を懸念する(11/10)
毎日新聞)激震トランプ 日米関係 同盟の意義、再確認から(11/11)
日本経済新聞)米社会の亀裂映すトランプ氏選出 (11/10)
日本経済新聞)日本は自由貿易の推進役を果たせ (11/11)
産経新聞)日本は防衛努力を強める覚悟持て 規格外の人物登場「トランプ・リスク」は不可避だ(11/10)





以下引用



朝日新聞 2016年11月10日05時00分
(社説)トランプ氏の勝利 危機に立つ米国価値観


 戦後の国際秩序を揺るがす激震である。
 自由と平等、民主主義、法の支配、開かれた市場経済といった普遍的価値観を、国家として体現してきたのが米国だ。
 2度の大戦や独裁政治への反省から、多くの国々や市民もその価値観に共感してきた。米国もまた、大国として支援の手を世界に差し伸べてきた。
 「自由なアメリカへのあこがれ」こそが、軍事力や経済規模では測れない米国の真の強さであったはずだ。
 そうした価値観に反する発言を繰り返してきた共和党のドナルド・トランプ氏が、米国の次期大統領に就く。
 「内向き」な米国の利益優先を公言する大統領の誕生で、米国の国際的な指導力に疑問符がつくことは間違いない。
 トランプ氏が選挙戦で訴えた「強い米国を取り戻す」ことを真剣に望むのなら、いま一度、米国の価値観に立ち戻って信頼を築き直してもらいたい。
 国際社会には将来への不安が広がっている。平和と安定をめざす世界の共通の意思を確認するため、日本を含む主要な民主国家が、どれだけ結束できるかも問われよう。
 ■世界を覆う動揺
 衝撃の選挙結果だった。しかし、予兆はあった。
 国境を越えて、人やカネ、情報が自在に行き来する。冷戦後に加速したグローバル化の波は、世界中で社会や経済のありようを大きく変えた。
 流れに乗れた人は豊かになる半面、取り残された人は少なくない。異なる文化や宗教をもつ人も身のまわりに増える。
 そうした格差と変化が生む社会の動揺に、各国の政治はきちんと向き合ってきただろうか。
 フランスやドイツで「移民排斥」をあおるポピュリズム政党が支持を広げ、東欧ではナショナリズムが勢いづく。英国は欧州連合からの離脱を決めた。
 それでも、米国は、反グローバル化の潮流に抗する「最後のとりで」になると信じていた人は少なくあるまい。
 08年の金融危機で沈んだ米国経済も、今では株価が持ち直し、失業率は約5%にまで下がった。多くの先進国が低迷を続ける中、米国はグローバル化の「勝ち組」に見えた。
 だが、その足元にも同様の現実が広がっていた。中間層の所得がほとんど伸びないかわり、富裕層はますます富み、格差の拡大に歯止めがかからない。
 「イスラム教徒が米国の安全を脅かす」「不法移民が雇用を奪う」。敵を作り、対決を自演したトランプ氏の手法は、露骨なポピュリズムそのものだ。
 ■政党政治への不信
 トランプ氏は既成政治を「特権層と癒着した庶民の敵」に仕立て、ヒラリー・クリントン氏をその一部として攻撃した。
 自分の声がないがしろにされているとの閉塞(へいそく)感から「チェンジ」を求めた国民が、政治の刷新を渇望するのは理解できる。
 その意味で、米国政治こそが最大の敗者と見るべきだろう。
 思えば、オバマ政権の任期後半は、民主党と共和党の対立が泥沼化し、新しい政策はほとんど打ち出せなかった。
 中間層から脱落する人々、世代を超えて貧困に滞る人々、教育や就職など機会が平等に与えられない人々……。
 それらの声に耳を澄まし、解決への効果的な選択肢を示す。そんな役割を果たすはずの政党政治が狭量な分断の政争に明け暮れ、機能不全に陥っている。それは日本を含む多くの国も自問すべき問題だろう。
 当選したトランプ氏も、具体的な処方箋(せん)を示していない。
 社会保障の充実、税逃れを許さない公正な課税など、中間層の視点に立った政策を地道に積み上げねば、この勝利の期待はたちまち失望に転じるだろう。
 ■米国の役割の自覚を
 出口が見えない中東の紛争、秩序に挑むような中国やロシアの行動、相次ぐテロ、北朝鮮の核開発など、国際情勢はますます緊張感をはらんでいる。
 地球温暖化や難民、貧困問題など、世界各国が結束して取り組むべき課題も山積する。
 従来の米国は、こうした問題に対処する態勢づくりを主導してきた。しかし、トランプ氏がそれを十分に把握しているようには見えない。
 それを象徴するのが、同盟国にコスト負担を求めたり、日韓などの核武装を容認したりするなど、同盟関係への無理解に基づく発言の数々だ。
 米国の役割とは何か。同盟国や世界との協働がいかに米国と世界の利益になるか。その理解を早急に深め、米外交の経験と見識に富む人材を最大限活用する政権をつくってほしい。
 日本など同盟国はその次期政権と緊密な関係づくりを急ぎ、ねばり強く国際協調の重みを説明していく必要がある。
 トランプ氏を、世界にとって取り返しのつかないリスクとしないために。
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朝日新聞 2016年11月11日05時00分
(社説)「トランプ大統領」の衝撃 保護主義に利はない


 米大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏は「米国第一主義」を掲げており、政策面で内向き志向を強めそうだ。
 通商政策では自由貿易の推進に否定的で、保護主義へかじを切ることが懸念される。だが、世界第一の大国が自国の目先の利益にとらわれた行動をとれば、世界経済の足を引っ張り、米国の利益にもならない。
 大統領就任後100日間で実施する政策をまとめた「有権者との契約」では、環太平洋経済連携協定(TPP)について「離脱を表明する」と明記した。カナダやメキシコとの北米自由貿易協定の再交渉や中国製品への関税強化なども訴える。
 12カ国が加わるTPPは、日米両国が国内手続きを終えないと発効しない仕組みだ。日本ではTPP承認案が衆議院を通り、国会での手続きが進んだが、発効は困難な情勢だ。
 トランプ氏の主張は、自由貿易を重視する共和党主流派の伝統的な政策と相いれない。上下両院で共和党が多数を握ることになっただけに、トランプ氏の訴えがどこまで具体化するかは不透明ではある。
 だが、世界経済は低成長に陥り、国際的な経済摩擦が相次ぐ。英国の欧州連合(EU)離脱決定に続き、トランプ氏の言動と政策が反グローバル化をあおることになれば、世界経済は本格的な停滞に陥りかねない。
 ある国が輸入品への関税を引き上げ、相手国も高関税で対抗する。貿易が滞って景気は冷え込み、失業者も増える。そうした悪循環が世界大戦まで引き起こしたことへの反省から、戦後の自由貿易体制は出発した。
 今世紀に入って世界貿易機関(WTO)での多国間交渉が行き詰まるなか、自由化の原動力は二国間や地域内の自由貿易協定(FTA)に移った。とくに規模が大きい「メガFTA」が注目され、その先陣を切ると見られてきたのがTPPだった。
 貿易や投資の自由化には、競争に敗れた産業の衰退や海外移転による失業など、負の側面がともなう。恩恵を受ける人と取り残される人との格差拡大への不満と怒りが世界中に広がる。
 だからといって、自由化に背を向けても解決にはならない。
 新たな産業の振興と就労支援など社会保障のてこ入れ、教育の強化と課題は山積する。大企業や富裕層による国際的な税逃れへの対応も待ったなしだ。
 自由化で成長を促し、経済の規模を大きくする。同時にその果実の公平な分配を強める。トランプ氏を含む各国の指導者はその基本に立ち返るべきだ。
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朝日新聞 2016年11月11日05時00分
(社説)「トランプ大統領」の衝撃 地域安定へ試練のとき


 政治、外交経験のないトランプ氏の大統領当選で、日米関係は試練のときを迎えている。
 何を言い出すか予測不能。日本との人脈も乏しい。アジア太平洋地域と世界の安定のために日米関係が果たしてきた役割への理解も不足している。
 日米関係を基軸としてきた日本外交の先行きは、不確実性を増している。
 それでも、戸惑ってばかりはいられない。腰を落として冷静に対処するしかない。
 安倍首相は17日にニューヨークでトランプ氏と会談する方向だ。まずは日米関係の重要性を改めて確認し、共有する機会としてほしい。
 そのうえで、来年1月の大統領就任までの期間を生かして人脈を築き、相互理解を広げる努力を重ねる必要がある。
 選挙戦でトランプ氏は、日本など同盟国の負担増を求めてきた。負担を増やさなければ米軍を撤退させるという主張だ。
 だが、同盟国がただ乗りしているような議論は誤りだ。同盟国の存在は、米国自身の安全保障にとっても重要である。
 日本の核保有を容認するかのような発言もあったが、認めることはできない。唯一の戦争被爆国である日本が非核三原則を堅持する。そのことが地域の安定に寄与してきた現実は、米国の大統領として最低限、踏まえるべきである。
 民主主義、法の支配などの価値観で結ばれた日米関係が地域安定の基礎となる。その利益は米国も享受している。
 中国は南シナ海などで強引な海洋進出を重ね、北朝鮮の核・ミサイル開発も止まらない。
 こうしたなかで、トランプ氏が内向きの発想や場当たり的な交渉で外交・安全保障政策を展開すれば、地域の秩序が崩れかねない。そのことは米国自身の国益にも反する。
 17日の会談で安倍首相には、こうした現実をトランプ氏に十分に説明してもらいたい。
 米国と関係の深い国ほど、日本と同じ不安を感じているだろう。日本が率先して、東南アジア諸国連合(ASEAN)や豪州、韓国などとの連携を強めることも考えてはどうか。
 一方、不安だからと防衛力の強化ばかりを急ぐことは、地域の安定を崩しかねない。
 軍事に偏ることなく、外交や経済、文化も含め日米の多層的な関係を深め、地域の平和と安定に向けた「公共財」としての役割を着実に果たしていく。
 トランプ大統領の登場を、あるべき日米関係の姿を構想し、考え直す機会とすべきだ。
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読売新聞 2016年11月10日 06時00分
社説:米大統領選 トランプ氏勝利の衝撃広がる


 ◆冷静に日米同盟を再構築したい◆
 政治や公職の経験がない人物が初めて米国の大統領に就く。日本などとの同盟の見直しを公言している。「予測不能」の事態の展開にも冷静に対処することが肝要である。
 米大統領選で、共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を接戦の末に破り、当選を確実にした。来年1月20日に就任する。
 トランプ氏は「米国を再び偉大にする」をスローガンに、オバマ民主党政権からの転換を唱えた。実業家の実績を強調し、「米国第一」の孤立主義と保護主義を打ち出した。国民皆保険を目指す「オバマケア」の撤廃も掲げた。
 ◆亀裂を修復できるか
 政界に縁がない「アウトサイダー」としての「変化」の訴えと過激な主張が、現状に不満を抱く有権者に浸透したのだろう。
 社説でトランプ氏を支持した新聞は皆無に近い。世論調査に基づく予測は覆された。内心では変革を願う「隠れトランプ」票を読み誤ったのではないか。
 焦点となっていたオハイオ州やペンシルベニア州で、トランプ氏は予想を上回る票を集めた。いずれの州も、工場の海外移転による雇用と人口の減少、地域社会の崩壊に苦しむ。
 過去の大統領選で投票に行かなかった白人労働者らが結集し、番狂わせの原動力となった。
 トランプ氏は勝利演説で、「分裂の傷を縫い合わせる時だ。皆で団結しよう」と呼び掛けた。
 まず取り組むべきは、選挙戦で深まった米社会の亀裂の修復だろう。移民やイスラム教徒への敵意を煽る言動と女性蔑視を改め、国民の結束を図らねばなるまい。
 ◆政治の劣化は深刻だ
 中傷合戦と醜聞に終始し、「史上最悪」と呼ばれる大統領選だった。相手候補に対するレッテル貼りやポピュリズムが目立ち、政策論争は深まらなかった。米国政治の劣化は深刻である。
 クリントン氏の敗因は、大統領夫人や上院議員も務めた経験を持つのに、説得力ある政策と展望を提示できなかったことだろう。「エスタブリッシュメント(既存の支配層)」の象徴とみられ、低い好感度を改善できなかった。
 国務長官時代に私用メールを公務に使った軽率さや、金融機関からの高額講演料問題、自らが関わる財団の癒着疑惑も響いた。
 トランプ氏は、公約の正しさが評価されたのではなく、「反クリントン」の波に乗って勝利したことを自覚すべきだ。
 優勢が伝えられるにつれて日経平均株価が急落し、円高・ドル安が進んだ。アジアの主要市場で株価が下落し、衝撃は欧州などにも広がった。トランプ氏の当選で世界経済の先行きが不透明になったとの不安感が理由だ。
 雇用創出や経済成長を実現するというトランプ氏の公約は根拠に欠けている。実際に環太平洋経済連携協定(TPP)の合意を破棄し、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直せば、米国の威信低下と長期的衰退は避けられまい。
 問題なのは、トランプ陣営が人材に乏しく、政策を精緻に点検してこなかったことである。
 大統領就任までにトランプ氏は優秀な専門家を周辺に揃え、実行可能な政策を練り上げる必要がある。
 共和党は議会選でも、上下両院で過半数を確保した。選挙戦で袂を分かった党主流派や重鎮には、トランプ氏の「暴走」を抑えながら、支えていくことが求められよう。
 ◆「予測不能」に備えよ
 何よりも懸念されるのは、同盟国を軽視するトランプ氏の不安定な外交・安保政策だ。オバマ大統領が「米国は世界の警察官ではない」と明言した後、内向き志向を強める世論も迎合しかねない。
 中露の影響力が相対的に拡大し、「力による現状変更」の動きが加速する恐れがある。米主導の国際秩序をこれ以上揺るがしてはならないだろう。
 トランプ氏は、日韓両国や北大西洋条約機構(NATO)などに駐留米軍撤退の脅しをかけ、経費の負担増を迫る。米国の「核の傘」を否定し、同盟国の核武装を容認する発言もあった。
 安倍首相は「日米は普遍的価値で結ばれた揺るぎない同盟だ。絆をさらに強固にしたい」と述べた。だが、トランプ陣営との間にパイプがないことは気がかりだ。
 日本は、新政権の方針を慎重に見極めながら、同盟の新たな在り方を検討すべきである。北朝鮮の核・ミサイル開発などで不透明さを増すアジア情勢への対応について、議論を深めねばなるまい。
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読売新聞 2016年11月11日 06時00分
社説:トランプ経済策 保護主義は全世界の不利益だ


 経済のグローバル化が進む中で、世界一の大国が独善的な「米国第一」主義に転じれば、国際社会全体に深刻な影響を及ぼす。ひいては米国の利益にもなるまい。
 次期米大統領に決まったドナルド・トランプ氏の経済政策が各国の耳目を集めている。
 勝利演説では「成長を現在の2倍にし、最強の経済にする」と米経済再生への意欲を強調した。
 「トランプリスク」に身構えていた米市場は9日、株価が急上昇した。10日の日本市場も反発し、前日の下落分を取り戻した。
 トランプ氏が掲げる法人減税や公共事業の上積みを好感したとみられる。共和党が米議会上下両院で多数を維持し、オバマ民主党政権での「ねじれ」が解消する。政策の実現性が高まるとの期待も反映したのだろう。
 米国が内需拡大による成長促進を果たせば、世界経済にとってプラスだ。ただ、減税を穴埋めする財源が見当たらず、財政悪化を懸念する声も出始めている。
 何より気がかりなのは、トランプ氏が選挙中、自由貿易を否定する発言を繰り返したことだ。
 低所得の白人層などが抱える不満の解決策を極端な保護主義に求めた。雇用が失われ、生活が苦しくなったのは安価な外国製品の流入によるものだと決め付け、米国に雇用を取り戻すと訴えた。
 自国通貨を安く誘導しているとして、中国を「為替操作国」に認定する構えを示した。日本が輸入する米国産牛肉並みの高関税を日本車にかけるとの発言もあった。北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しにも言及している。
 米国が、雇用維持のため自国市場を閉ざす保護主義を強めれば、主要な貿易相手国である中国のみならず、景気が低迷する新興国に与える打撃は計り知れない。世界経済の停滞は、結局は米経済の成長をも阻害する。
 米国の内向き志向に歯止めをかけるには、日本など主要国が果たす役割が極めて重要となる。
 今国会の焦点である環太平洋経済連携協定(TPP)承認案が10日、衆院を通過した。参加12か国が正式に合意した協定の国内手続きを進めるのは当然だ。
 しかし、トランプ氏はTPPからの撤退を公言しており、発効が厳しい状況なのは間違いない。
 安倍首相は来週訪米し、トランプ氏と会談する方向だ。自由貿易体制の重要性や、TPPを含む望ましい通商協定のあり方について理解を求める必要がある。
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毎日新聞2016年11月10日 東京朝刊
社説:米大統領にトランプ氏 世界の漂流を懸念する


 まさに怒濤(どとう)のような進撃だった。
 米大統領選で共和党のドナルド・トランプ候補の当選が確定した。予備選の段階では泡沫(ほうまつ)候補とみられたトランプ氏は圧倒的な強さで同党の候補者指名を獲得し、本選挙でも知名度に勝る民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官を破った。
 多くの米紙はクリントン氏を支持し、トランプ氏の大統領としての資質を疑問視した。投票前、ほとんどの米メディアはクリントン氏の勝利を予測したが、たたかれるほど強くなるトランプ氏は世論調査でも支持率を正確に測れなかった。潜在的な支持者(隠れトランプ)が多く、逆境になるほど結束したからだろう。
超大国の歴史的な転換
 「私は決して皆さんをがっかりさせない」。勝利集会でトランプ氏はそう語った。クリントン氏から祝福の電話を受けたことも明かした。混迷の大統領選はこうして決着した。
 米国の民意は尊重したいが、超大国の変容は大きな影響を及ぼす。メキシコ国境に不法移民流入などを防ぐ壁を造る。イスラム教徒の入国を規制する。国民皆保険をめざすオバマケア(医療保険制度改革)は即時撤廃し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にも地球温暖化対策の「パリ協定」にも断固反対--。こうしたトランプ氏の方針は国内外の将来を一気に不透明にした。
 日米関係も例外ではない。同氏は米軍駐留経費の全額負担を日本に求め、それが不可能なら核武装も含めて米軍抜きの自衛措置を取るよう訴えてきた。米国が主導する軍事組織・北大西洋条約機構(NATO)にも軍事費の負担増を要求し、「嫌なら自衛してもらうしかない」というのが基本的なスタンスだ。
 英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めたことに続く、大きな衝撃である。第二次大戦後の世界は冷戦とソ連崩壊を経て米一極支配の時代に入り、米国の理念に基づいて国際秩序が形成されてきた。
 その理念がかげり、利益誘導型のトランプ流「米国第一」主義が先行すれば国際関係は流動化する。経済にせよ安全保障にせよ国際的なシステムが激変する可能性を思えば、世界漂流の予感と言っても大げさではなかろう。
 だが、米国は単独で今日の地位を築いたのではない。故レーガン大統領にならって「米国を再び偉大な国に」をスローガンとするのはいいが、同盟国との関係や国際協調を粗末にして「偉大な国」であり続けることはできない。その辺をトランプ氏は誤解しているのではないか。
 そもそも、なぜトランプ氏が勝ったのか。10月末、フロリダ州で開かれた同氏の集会では、元民主党員の40代の男性が「民主党のクリントン政権は女性スキャンダルにまみれ、オバマ政権の『チェンジ』も掛け声倒れだった。もう民主党には期待できない」と語った。これはトランプ支持者の代表的な意見だろう。
 8年に及ぶオバマ政権への飽きに加えて、クリントン氏の「私用メール問題」で米連邦捜査局(FBI)が選挙中に再捜査を宣言したことも選挙に影響したのは間違いない。
 だが、クリントン氏の決定的な敗因は経済格差に苦しむ人々の怒りを甘く見たことだ。鉄鋼や石炭、自動車産業などが衰退してラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる中西部の各州は民主党が強いといわれ、ここで勝てばクリントン氏当選の目もあった。
米国の民主主義どこへ
 実際はトランプ氏に票が流れたのは、給与が頭打ちで移民に職を奪われがちな人々、特に白人の怒りの表明だろう。米国社会で少数派になりつつある白人には「自分たちが米国の中心なのに」という焦りもある。教育を受けても奨学金を返せる職業に就きにくく、アメリカンドリームは過去のものと絶望する人々にもトランプ氏の主張は魅力的だった。
 政治経験がなくアウトサイダーを自任する同氏は富豪ではあるが、経済格差などは既成政治家のせいにして低所得者層を引き付けてきた。米国社会の不合理を解消するには既成の秩序や制度を壊すしかない。大統領夫人や上院議員、国務長官を歴任したクリントン氏は既成政治家の代表だ--という立場であり、徹底したポピュリズムと言ってもいい。
 それゆえ従来の秩序を壊した後にどう再建するのか、その道筋が見えにくい。候補者討論会も低次元な批判合戦に終始し「最も醜い大統領選」と言われた。トランプ氏は今後、より具体的な政策を示してほしい。
 共和党の指導部はトランプ氏の女性蔑視発言などに嫌気がさして大統領選の応援を控えた。だが、よき伝統を重んじる同党は、米国の力で世界を変えようとしたネオコン(新保守主義派)や「小さな政府」を求める草の根運動「ティーパーティー(茶会)」などと協調するうちに方向性を失い、トランプ氏という「怪物」を出現させたようにも見える。
 今回の選挙は2大政党の一方が機能不全に陥ったとはいえ、民主主義の一形態ではあった。今後、トランプ氏と共和党は団結できるのか、クリントン氏の支持者との融和は可能なのか。米国の民主主義が真価を問われている。
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毎日新聞2016年11月11日 東京朝刊
社説:激震トランプ 日米関係 同盟の意義、再確認から


 米大統領に決まった共和党のドナルド・トランプ氏は、米国の利益を最優先する「米国第一主義」(アメリカ・ファースト)を掲げ、米国の伝統的な価値観である自由、平等、多様性に反するような排外主義的な発言を繰り返してきた。
 その矛先は日本、韓国、北大西洋条約機構(NATO)加盟国、サウジアラビアなど、米国の同盟国にも向けられている。米国が同盟国のために過大な負担をしていると主張し、同盟の見直しに言及し、同盟国に負担を増やすよう求めている。
アジアを支える公共財
 トランプ氏が選挙戦で展開した主張通りに政権を運営するかどうかはわからないが、そうなれば日米安保体制は揺らぎかねない。
 選挙戦でトランプ氏は「米国は日本やドイツ、韓国を防衛しているが、彼らは対価を支払っていない。応分の負担をしなければ、日本を防衛することはできない」と語った。
 日米安保条約について「不公平」だとして再交渉を求め、日本が在日米軍の駐留経費負担を大幅に増額しなければ米軍を撤退させることや、日本や韓国の核保有を容認する発言もしている。「世界の警察官にはなれない」とも話している。
 オバマ政権はアジア・リバランス(再均衡)政策を掲げたが、トランプ政権は、前政権とは比較にならないほど、国際秩序の維持に関心の薄い政権になる可能性がある。
 米国がアジア太平洋地域への関与を低下させれば、冷戦構造の残る東アジアは「力の空白」が生じ、不安定化は避けられないだろう。そうなれば北朝鮮、中国、ロシアの軍事動向にも影響が出るかもしれない。
 日米安保体制は日本や米国のためだけでなく、アジア太平洋地域の安定を支える「公共財」としての役割を果たしている。今後も、米国の同盟国である日本、韓国、豪州が協力して地域の安定を支え、中国を国際的な秩序に取り込んでいくことが重要だ。日米安保体制はその礎であるべきだ。
 トランプ氏が日米安保条約を不公平と断じる理由は「米国が攻撃されたら日本は何もしなくていいが、日本が攻撃されたら米国が総力を挙げて出て行かなければならない。片務的な合意だ」というものだ。
 だが、米国が一方的に負担しているかのような認識は正しくない。
 日米安保条約は、5条で米国の日本防衛義務を定め、代わりに6条で日本の米軍に対する基地提供義務を定めている。日米の役割は非対称だが双務的だ。日本は、トランプ氏側に日米安保条約の内容を丁寧に説明して理解を求め、日米同盟の意義を再確認する必要がある。
 日米安保条約は日本を守るためだけにあるわけではない。米国は安保条約6条に基づいて、日本に広大な基地を持ち、その基地を米国の世界戦略の中で位置づけてきた。米国にとっても大きな利益になっている。
 在日米軍の駐留経費についても、日本は応分以上の負担をしているのが現実だ。日本は、日米地位協定で義務づけられた負担に加えて、年間で約1900億円の「思いやり予算」を負担している。
自主防衛・核保有は論外
 安倍晋三首相は、トランプ氏が次期大統領に決まったのを受けて電話し、17日にニューヨークで会談することを確認した。首相が電話で語った内容からは、米国が「内向き」思考に陥らずに、アジア太平洋地域に関与し続けることが米国の利益であり力の源泉になるのだと、トランプ氏に呼びかける意図がうかがわれる。日本政府は、こうした外交努力を積み重ねてほしい。
 日本国内では早くも在日米軍駐留経費の負担増はやむを得ないという意見や、日本の防衛費の大幅増額論や「自主防衛論」「核保有論」まで出ている。それに伴って憲法9条改正を求める声もある。
 社会保障費の増大や借金まみれの財政事情を考えても、自主防衛は現実的ではない。核兵器の保有など、唯一の戦争被爆国として論外だ。
 厳しい国際情勢に対応するには、外交が基本となるのはもちろんだが、そのうえで軍事的な分野で日本はどこまで負担をすべきか、議論を深める必要がある。差し迫った課題としては、北朝鮮の核・ミサイル開発への対応について、日米韓3カ国による認識の共有が欠かせない。
 沖縄県・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる問題にも、トランプ大統領の誕生が、影響を及ぼす可能性がある。在日米軍の抑止力は維持する必要があるが、沖縄への過度の基地集中は解消しなければならない。辺野古以外の選択肢を柔軟に検討する機会にすべきだ。
 日米同盟が何のために必要か、どういう国際秩序を描くのか、そのために日本はどういう役割を果たすべきか、主体的に不断に考える作業が欠かせなくなるだろう。トランプ氏の登場はそのことをいや応なしに日本に突きつけているように見える。
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日本経済新聞 2016/11/10付
社説:米社会の亀裂映すトランプ氏選出


 超大国アメリカの次の大統領に共和党のドナルド・トランプ候補の就任が決まった。数々の暴言で物議を醸してきた人物だけに内外に大きなきしみを生みかねない。ただ、ひとりの指導者の言動ですべてが左右されるほど国際情勢は単純でもない。まずは冷静に新政権の針路を見極めたい。
 今回の大統領選ほど米国の揺らぎを感じさせた選挙はなかった。トランプ氏はイスラム教徒や中南米系の移民をことさらに敵視することで、生活に苦しむ白人が抱く不安や不満を巧みに吸い上げた。
懸念される保護主義化
 トランプ現象には様々な要因がある。所得格差が広がり政治の安定の基礎となる中間層が薄くなった。中南米系移民の増加によって米社会の主役だった白人の地位が脅かされつつあると感じる人も増えた。「一つの米国」を目指したオバマ政権は米社会のこうした亀裂を埋めることができなかった。
 米国民が一体感を失えば社会は機能不全に陥り、国際社会での指導的地位も保てなくなる。トランプ政権が発足後、まず取り組むべきは社会の分断を止めることだ。
 不法移民の流入に一定の歯止めをかける対策は必要だろう。だが、トランプ氏が主張する壁の建設などではなく、不法移民の雇用への罰則強化などが現実的だ。
 合法的な移民は大事な労働力であり、米社会を活性化させる存在であることが認識されれば、白人との融和の道も開けるはずだ。幸い米国経済は改善しており、漸進的な改革のための時間はある。
 トランプ氏は製造業が苦境にあるペンシルベニア、オハイオなどの州で勝利した。雇用悪化は北米自由貿易協定(NAFTA)や中国の不公正貿易のせいだと主張したのが共感を集めた。
 だが、高関税などの保護主義的な政策をとればむしろ庶民の生活を悪化させる。技術変化やグローバル化で打撃を受けた人をどう支えるかに政策の焦点を当てるべきだ。同氏は経済政策の柱として大型減税を掲げるが、それだけでは問題を解決できないだろう。
 トランプ氏はオバマ政権が実現した医療保険制度改革(オバマケア)の廃止も訴える。支払い能力を欠く貧困層が民間の医療保険に加入したことに伴う保険料の値上がりは事実だが、これへの政策対応は可能である。対立をあおる手法はそろそろ終わりにすべきだ。廃止されれば医療保険に入れなくなる貧困層は反発するだろう。
 内政にかかり切りになり、外交に手が回らない事態も予想される。共和党の多くの外交ブレーンが背を向けたトランプ陣営の人材不足も心配である。
 米国のアジアへの目配りが弱くなることを覚悟しなくてはならない。政権移行期の権力の空白を突いて中国が南シナ海や東シナ海で新たな動きに出る可能性もなしとはしない。日本政府はまずはこうした事態に備えねばならない。
 米国がアジア戦略の一環として進めてきた環太平洋経済連携協定(TPP)はトランプ氏が強く反対しており、白紙に戻る公算が大きい。TPPをアベノミクスの推進役として期待していた安倍政権にとっては打撃であり、シナリオの練り直しも必要になる。同時にアジア・太平洋地域での貿易・投資促進が日米両国にとって極めて重要である点を新大統領に粘り強く説いていくことが欠かせない。
駐留負担増の検討必要
 トランプ氏は駐留米軍の費用を日本に全額負担させると発言してきた。日本の安全保障が米軍に依存しているのは事実であり、ある程度の負担増はやむを得ない。新政権の関心をアジアに向けさせるためにも、早めに交渉の席に着くことが現実的だろう。
 同氏が「ただ乗り」批判をしたのは日本だけではない。韓国やサウジアラビアも対象になっており「日本たたき」などと感情的に反発すべきでない。損得勘定にさとい相手にはビジネスライクな対応がむしろよいのかもしれない。
 日本の防衛力強化も避けて通れない道だ。とはいえ、唯一の被爆国である日本はトランプ氏が一時言及したからといって核武装を選ぶことはあり得ない。国連平和維持活動(PKO)など世界平和への協力に日本も汗を流すなどして日米の絆を深めるのが現実的だ。
 欧州連合(EU)離脱を選んだ6月の英国の国民投票に続くサプライズは、世界にさらなるポピュリズムの風を吹かせるだろう。日本はその風にのみ込まれることのないようにしたい。経済の改善や社会の調和に努めることで安定した民主主義国家としての基盤を強めていくことが重要だ。
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日本経済新聞 2016/11/11付
社説:日本は自由貿易の推進役を果たせ


 日米など12カ国が合意した環太平洋経済連携協定(TPP)について、米共和党の議会指導部が年内の議会承認を見送る考えを表明した。
 反TPPを公約として掲げたドナルド・トランプ氏が次期米大統領に就くためだ。これにより世界経済の約4割をカバーするTPPの発効は見通せなくなった。きわめて残念である。
アジア経済連携加速を
 TPPは21世紀型の貿易・投資協定だ。モノの関税撤廃に加え、環境、労働、知的財産権など広範な内容を含み、実質的に世界標準となりうるルールを定めている。
 TPPが発効するには日米両国の批准が不可欠だ。トランプ氏がTPPからの離脱を明言している以上、TPPは漂流を余儀なくされる。その事実を踏まえ、世界と日本は自由貿易秩序の再構築に挑まなければならない。
 自由な貿易や投資を通じてアジア太平洋地域を成長させ、世界経済をけん引する。その中核としてのTPPの意義は変わらない。
 TPPの先には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加する21カ国・地域による経済連携であるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)という構想がある。
 TPPが足踏みするにせよ、この地域の自由貿易構想は、世界と日本にとって死活的に重要だ。
 日本は今国会でTPP承認案・関連法案を着実に成立させつつ、TPPが実現しようとしている価値の大きさをトランプ氏や米議会に粘り強く訴える必要がある。
 同時に、TPPの先行きが不透明であるからこそ、他の経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の交渉を加速させなくてはならない。
 日本と欧州連合(EU)は年内の大筋合意をめざしてEPA交渉を進めている。農産品の関税引き下げや政府調達などの懸案はあるものの、首相官邸主導で決着させてほしい。
 日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドを含む16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉は年内の大筋合意が困難になっている。しかし、中国やASEANなどの間では、来年中の合意をめざす機運が高まっているという。
 合意時期を優先する代わりに、貿易自由化の度合いが低い中身で妥協するのは困る。自由化に慎重な中国やインドを説得する難しさは理解できるが、日本には高い水準で決着できるよう積極的な役割を果たすよう求めたい。
 中国は米国と投資協定を結ぶ交渉をしている。日本も中国や韓国との間で投資ルールを含むFTAの交渉を再活性化し、米国の後手に回らないようにしてほしい。
 こうした米国が参加していないアジア地域の貿易自由化交渉では、相対的に中国の存在感が高まるのはやむを得ない。
 日本が中国に次ぐ経済規模を持つ大国として交渉をしっかりまとめれば、米国に貿易自由化に前向きに転じるよう圧力をかけることができる。手をこまぬいていることは許されない。
 トランプ氏はカナダやメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)を再交渉するとも主張している。
保護主義の連鎖を防げ
 もしもメキシコや中国からの輸入品に高い関税をかければモノの価格が値上がりし、低所得者の生活を圧迫して個人消費は下振れしかねない。「中間層を破壊する」といった主張で自由貿易を敵視する姿勢は撤回してほしい。
 世界共通の通商ルールを定める世界貿易機関(WTO)の交渉は事実上暗礁にのりあげている。米国とEUのあいだの貿易投資協定の交渉も難航している。
 英国のEU離脱決定とトランプ氏の当選は、経済のグローバル化への批判から保護主義的な動きが強まる世界の現実を示す。
 欧州に目を転じると、12月上旬にイタリアで憲法改正の是非を問う国民投票が実施される。来年にはフランスの大統領選、ドイツの連邦議会選挙が予定され、開放的な自由経済に反対する極右勢力の台頭が懸念されている。
 しかし、グローバル化に背を向けて世界が持続可能な成長を保てる保証は全くない。世界貿易は今年に入って減速している。保護主義の台頭はこれに拍車をかけ、世界経済の成長率をさらに押し下げるリスクがある。
 主要先進国の中で日本はもっとも政治情勢が安定し、安倍晋三首相は比較的高い支持率を保つ。今こそ日本は自由貿易の守護者として世界を引っ張る時ではないか。
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産経新聞 2016.11.10 05:01
【主張】日本は防衛努力を強める覚悟持て 規格外の人物登場「トランプ・リスク」は不可避だ


【ドナルド・トランプ氏、第45代米大統領に】
 超大国の次期指導者に、当初は泡沫(ほうまつ)候補扱いだったトランプ氏が決まった。
 不動産王として知られてはいたが、政治経験はない。イスラム教徒の入国禁止を叫ぶなど数々の暴言、失言で世間を騒がせた。そういう氏の勝利は衝撃的であり、同時にアメリカ国民の選択にも驚きを禁じ得ない。
 その行方は不透明だが、米国が劇的な変化を求めた結果を冷静に受け止めるしかない。
 日本は米国を最も重要な同盟国と位置付けてきた。問われるのは、自由と民主主義などの価値観を共有する関係を今後もいかに維持していくかの具体論である。
《価値観共有への努力を》
 格差拡大をめぐる不満などに起因する国内の対立の解消は、米国自らの手で行う問題である。だが、トランプ氏が訴える「米国第一主義」が孤立主義につながりかねない以上、自由貿易拡大の理念を貫徹するよう、日本は働きかける必要がある。
 予想外の展開、規格外の人物の登場により「トランプ・リスク」が生じるのは避けられまい。これに振り回されないため、政治、経済の両面での備えが必要だ。
 強く懸念されるのは、米国で内向き志向が強まることだ。
 安全保障の観点では、日米同盟軽視の姿勢は日本の安全に直結する。トランプ氏は日本だけでなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や韓国など他の同盟国にも駐留米軍経費の負担増を求める考えを示している。
 発想の根本には損得勘定があるようだが、国際秩序の維持に努める重大な意義と天秤(てんびん)にかけられる話ではあるまい。
 米軍はアジア太平洋地域の平和と安定に重要な役割を果たしている。この地域はいま、中国の一方的海洋進出に歯止めをかけられるかどうかの岐路に立たされており、その成否は米国自身の国益にも結び付いている。
 北朝鮮の核、弾道ミサイル開発も、米国の安全を脅かしかねない段階に入っている。
 日本の経費負担の現状や在日米軍の持つ抑止力の意義について誤解を解く努力を重ねるべきだ。より重要なのは、東シナ海の尖閣諸島の危機を抱える日本として、自ら防衛努力を強める覚悟を持つことである。
 安倍晋三首相は「普遍的価値で結ばれた同盟を強固にしていきたい」と語った。決意のみならず、具体的な防衛力の強化策を講じることが不可欠といえよう。
 トランプ氏優勢が伝えられた段階から東京株式市場の株価が暴落するなど、金融市場は大荒れの展開となった。
 保護主義的な主張への警戒だけでなく、予想のつかぬ政策運営で経済が混乱する不確実性への不安もあろう。
《経済変調に警戒怠れぬ》
 堅調な米経済が直面する新たな政治リスクが、停滞感の強い世界景気を下押しすることがないか警戒を怠るわけにはいかない。
 大統領就任時に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱を宣言するとした点は見過ごせない。米国の脱落はTPPを無にする。
 あらゆる国の経済が密接につながる中で、自由貿易を推進する経済連携を否定するなど、米国の成長に資するはずがない。
 TPPの戦略的な意義も再認識してほしい。覇権主義的傾向を強める中国ではなく、日米が軸となってアジア太平洋の新たな経済秩序を築く。その役割を放棄するなら、米国への信頼は失墜する。
 オバマ大統領は残りの任期中の議会承認を目指している。議会もこれに応じるべきだ。特に本来、自由貿易に前向きな共和党はその理念を実現する責任が大きい。
 日本が確実に国会手続きを進めるのは当然だ。
 その上で他の参加国とも連携し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などの機会に米国に承認を促すべきだ。
 差別的発言や女性蔑視発言が繰り返されたことは、米国内に宗教や人種、党派による分断状態があることを浮き彫りにした。
 オバマ大統領が世界の警察官を否定したことで、中国やロシアが台頭する局面が増え、米国の影響力低下が顕在化した。
 「米国を再建する」と語るトランプ氏には、融和と超大国としての責任を語ってほしい。
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