2016-11-13(Sun)

米トランプ大統領の衝撃広がる (2)民衆の悲憤を聞け

孤立主義に未来はない 危うさはらむ民主主義 排外・保護主義を憂慮する 「国際協調」を忘れるな

<各紙社説・主張>

東京新聞)トランプのアメリカ(上) 民衆の悲憤を聞け(11/10)
東京新聞)トランプのアメリカ(中) 孤立主義に未来はない(11/11)
北海道新聞)トランプ氏勝利 冷静な政策の遂行求める(11/10)
河北新報)トランプ氏当選/排外・保護主義を憂慮する(11/10)
信濃毎日新聞)トランプ氏勝利 危うさはらむ米民主主義(11/10)

京都新聞)トランプ氏当選  幅広い結束を実現できるか(11/10)
神戸新聞)トランプ氏当選/「史上最も醜い戦い」の末に(11/10)
中国新聞)米大統領にトランプ氏 「国際協調」を忘れるな(11/10)
西日本新聞)トランプ氏勝利 内向き米国はどこへ行く(11/10)
西日本新聞)日米関係 トランプ・リスクに備えよ(11/11)




以下引用



東京新聞 2016年11月10日
【社説】トランプのアメリカ(上) 民衆の悲憤を聞け


 変化を期待して国民は危険な賭けに出た。超大国のかじ取りを任されたトランプ氏。旋風を巻き起こした本人には、それを果実に変える責任がある。
 支配層への怒りが爆発した選挙結果だった。ロイター通信の出口調査によると、「金持ちと権力者から国を取り返す強い指導者が必要だ」「経済は金持ちと権力者の利益になるようゆがめられている」と見る人がそれぞれ七割以上を占めた。
◆現状打破への期待
 トランプ氏はその怒りをあおって上昇した。見識の怪しさには目をつぶっても、むしろ政治経験のないトランプ氏なら現状を壊してくれる、と期待を集めた。
 逆に、クリントン氏はエスタブリッシュメント(既得権益層)の一員と見なされ、クリントン政権になっても代わり映えしないと見放された。
 政策論争よりも中傷合戦が前面に出て「史上最低」と酷評された大統領選。それでも数少ない収穫には、顧みられることのなかった人々への手当ての必要性を広く認識させたことがある。トランプ氏の支持基盤の中核となった白人労働者層だ。
 製造業の就業者は一九八〇年ごろには二千万人近くいたが、技術革新やグローバル化が招いた産業空洞化などによって、今では千二百万人ほどにまで減った。失業を免れた人も収入は伸びない。
 国勢調査局が九月に出した報告書によると、二〇一五年の家計所得の中央値(中間層の所得)は物価上昇分を除いて前年比5・2%増加し、五万六千五百ドル(約五百七十六万円)だった。
 六七年の調査開始以来、最大の伸びだが、最も多かった九九年の水準には及ばず、金融危機前の〇七年の時点にも回復していない。
◆取り残された人々
 一方、経済協力開発機構(OECD)のデータでは、国の最富裕層の上位1%が全国民の収入の22%を占める。これは日本の倍以上だ。上位10%の占める割合となると、全体のほぼ半分に達する。
 これだけ広がった貧富の格差は、平等・公正という社会の根幹を揺るがし、民主国家としては不健全というほかない。階層の固定化も進み、活力も失う。
 展望の開けない生活苦が背景にあるのだろう。中年の白人の死亡率が上昇しているというショッキングな論文が昨年、科学アカデミーの機関誌に掲載された。それによると、九九年から一三年の間、四十五~五十四歳の白人の死亡率が年間で0・5%上がった。
 ほかの先進国では見られない傾向で、高卒以下の低学歴層が死亡率を押し上げた。自殺、アルコール・薬物依存が上昇の主要因だ。
 ピュー・リサーチ・センターが八月に行った世論調査では、トランプ支持者の八割が「五十年前に比べて国は悪くなった」と見ている。米国の先行きについても「悪くなる」と悲観的に見る人が68%に上った。
 グローバル化の恩恵にあずかれず、いつの間にか取り残されて、アメリカン・ドリームもまさに夢物語-。トランプ氏に票を投じた人々は窒息しそうな閉塞(へいそく)感を覚えているのだろう。
 欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票でも、グローバル化から取り残された人々の怒りが噴き出した。グローバル化のひずみを正し、こうした人たちに手を差し伸べることは欧米諸国共通の課題だ。
 トランプ氏は所得の再配分よりも経済成長を促して国民生活の底上げをすると主張する。それでグローバル化の弊害を解消できるかは疑問だ。対策をよく練ってほしい。
 女性や障害者をさげすみ移民排斥を唱えるトランプ氏は、封印されていた弱者や少数派への偏見・差別意識を解き放った。そうした暴言は多民族国家である米社会の分断を、一層進行させることにもなった。
 オバマ大統領は「先住民でない限り、われわれはよその土地で生まれた祖先を持つ。移民を迎え入れるのは米国のDNAだ」と語ったことがあるが、その通りだ。米国が移民を排除するのは、自己否定に等しい。
◆夢追える社会実現を
 米国の今年のノーベル賞受賞者七人のうち、ボブ・ディラン氏を除く六人が移民だ。移民は米国の活力源でもある。
 国を束ねる大統領として、トランプ氏は自身の言動が招いたことに責任をとらねばならない。顧みられることのなかった人々への配慮は、人々の怒りを鎮め、分断を埋めることにもつながる。
 米国の抱える矛盾があらわになった大統領選だった。国民が再びアメリカン・ドリームを追うことのできる社会の実現をトランプ氏に期待したい。
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東京新聞 2016年11月11日
【社説】トランプのアメリカ(中) 孤立主義に未来はない


 米大統領は国際社会で主導的役割を果たすべき指導者だ。内にこもって孤立しては、自国の未来も描けないことをトランプ氏は悟ってほしい。
 オランド仏大統領が「不確実時代の幕開けだ」と言うように、国際問題の知識も浅く政治経験もない超大国の次期指導者が何を言い出すか、世界中が身構えている。
◆内向きの国内世論
 まず心配なのは、トランプ氏の孤立主義だ。
 ブッシュ前政権は国際問題へ過剰に武力介入した。反面教師としたオバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と宣言する。アフガニスタンとイラクという二つの戦争に疲れた米社会の気分を受けての発言だった。
 トランプ氏もオバマ氏と全く同じことを言っているが、中身は大きく違う。トランプ氏はリーダーの役割を放棄し、世界の面倒なことに首を突っ込むのは一切やめようという姿勢だ。
 しかも、地球温暖化対策の新たな国際的枠組みのパリ協定からの脱退を主張するように、身勝手ぶりが目立つ。それがトランプ流の「米国第一主義」なのだろう。
 ただ、社会の空気は敏感にかぎ分けている。ピュー・リサーチ・センターが十月、「米国は自国の問題に専念すべきか、問題を抱える他国を助けるべきか」を米国民に聞く世論調査をしたところ、「専念すべきだ」とする人が54%に上り、一九九五年の41%から13ポイント増えた。「助けるべきだ」は41%だった。
 このうちトランプ支持者の七割が「専念すべきだ」と答えた。孤立主義は潮流に合っている。
 実は米国は一七七六年の建国当初、旧世界の欧州と一線を画する孤立主義を標榜(ひょうぼう)した。
 初代大統領のワシントンは「なぜ、われわれの平和と繁栄を欧州の野望や抗争、利害、気まぐれに絡ませなくてはならないのか。外部世界との恒久的な同盟関係を避けるのがわれわれの真の政策だ」と辞任のあいさつで語った。一八二三年にはモンロー第五代大統領が欧州との間の相互不干渉を説いた「モンロー宣言」を出した。
 転機になったのは第一次大戦だ。ウィルソン第二十八代大統領は参戦を決断し、国際連盟の設立をはじめ理想主義的目標を掲げた。ところが、大戦後発足した国際連盟に米国は加盟せず、孤立主義や保護貿易主義に傾斜。結果的にファシズムの台頭を許した。
◆同盟は貴重な資産
 トランプ氏は内向き世論に乗って、先祖返りを志向する。だが、米国が閉じこもってしまえば、国際社会は一層乱れ、結局、米国の国益にもならない。
 シリア内戦は北部の要衝アレッポで、アサド政権とその後ろ盾のロシアが民間人を巻き込む空爆を続け、国連は「歴史的規模の犯罪」(ゼイド人権高等弁務官)と非難する。和平協議は行き詰まり、欧州を疲弊させている難民問題の展望も開けない。
 膨張主義の中国は仲裁裁判所の判決後も南シナ海の軍事拠点化を進めている。いずれの問題に対処するにも米国は欠かせない。
 トランプ氏の同盟を軽視する姿勢も気掛かりだ。日本や韓国などを指して「米国は彼らを防衛しているのに、彼らは対価を払っていない」と事実誤認に基づく主張を繰り返す。
 在日米軍の駐留経費の増額を要求してくることが予想されるが、安全保障は目先の損得勘定で測るべきものではない。
 中国やインドなど新興国の追い上げによって、米国は経済的にも軍事的にも、かつてのような群を抜いた存在ではなくなっていく。
 だからこそ他国との同盟関係を強化し、足らざる面を補うことが必要になる。米国が今後も国際問題で中心的な役割を担うために、同盟は貴重な資産だ。
 逆に同盟を弱体化させれば、再三唱えてきた「偉大なアメリカ」は遠ざかるだけだ。
◆危険な保護貿易主義
 トランプ氏は自由貿易を目の敵にするが、保護主義に走れば相手国も報復関税で対抗する。第二次大戦後の世界経済秩序は、その反省に立って築かれたことを忘れてはなるまい。
 日本や韓国の核保有容認論は、仮の話としても核軍拡競争を招くだけだし、米国の安全保障費用も膨らむだろう。
 歴代共和党政権で外交・安保政策を担当した元高官ら五十人が八月に出した共同声明は、トランプ氏が「米史上最も無謀な大統領になり、国家の安全保障を危険にさらす」と強く警告した。
 トランプ氏は優秀実務の外交・安全保障の陣容をそろえ、その進言に耳を傾けてほしい。そうでないと、世界も米国民も安心はとてもできない。
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北海道新聞 2016/11/10 10:00
社説:トランプ氏勝利 冷静な政策の遂行求める


 米大統領選で、共和党のドナルド・トランプ候補が事前の予想を覆し、民主党のヒラリー・クリントン候補を破った。
 公職経験のない実業家が来年1月、第45代大統領に就任する。
 移民やイスラム教徒らへ排外的で乱暴な物言いを繰り返すトランプ氏に対し、クリントン氏も既得権益層の擁護者とみられ、「嫌われ者同士の争い」とやゆされた。
 共和党有力者たちはトランプ氏から離反したが、それでも有権者はクリントン氏に比べて「よりまし」と判断した。
 クリントン氏にとってメール問題再燃が打撃になったのは確かだが、それ以上に格差社会を解決できない既存政治への怒りがトランプ氏を押し上げた。
 トランプ氏は世界の紛争に関与しない孤立主義の立場をとる。だが米国は国際社会に積極的に関わることでその地位を保ってきた。
 陰りが見えるとはいえ、米国は唯一の超大国だ。オバマ現政権の国際協調主義を引き継ぎ、冷静な政策を遂行するよう求めたい。
■焦点だった格差拡大
 トランプ氏は勝利宣言で「私は全ての国民の大統領になる」と述べ、国民に融和を呼び掛けた。だが世界の見方は厳しい。ドル急落はその一例である。
 トランプ氏の勝利は米国の閉塞(へいそく)感をあらためて示した。
 ブッシュ政権下で始めたアフガニスタンとイラクへの対テロ戦争は泥沼化し、単独行動主義の無謀さを露呈した。リーマン・ショックはグローバル化を進めた新自由主義の問題点をあぶり出した。
 そこに「変革」を訴えて大統領に就任したのがオバマ氏だ。
 「シェール革命」などで経済は好転したが、非正規雇用が増え、実質賃金は低下し貧困層が拡大した。高額の奨学金返済に苦しむ若者は、将来への希望を持てないでいる。
 8年待っても変革は起きず、「反オバマ感情」が高まった。それがトランプ氏に向かった面は否定できない。
 だからといって、「偉大な米国の復活」というスローガンは移民や難民の排斥に直結するものではない。排外的な政策を封印すべきである。
 トランプ氏は規制緩和や優遇税制で海外流出した生産拠点を呼び戻し、10年間で2500万人の雇用をつくるとも訴える。だが具体性に欠ける。社会保障の拡充など富の分配にこそ力を注ぐべきだ。
 格差問題は欧州をも内向きにした。英国が欧州連合(EU)離脱を決めたのもそのためだ。現状への異議申し立てが極右勢力などの急伸を招いている。今回の大統領選の結果と似てはいないか。
■妄言はもう終わりに
 気になるのはトランプ氏の数々の過激な発言だ。
 不法移民やテロへの対策として、「メキシコとの国境に壁を建設する」「イスラム教徒の入国を禁止する」などと非現実的な主張を繰り返してきた。
 中国に対しては雇用を奪っていると非難する一方で、天安門事件は学生たちの暴動だと呼び、人権抑圧政策を肯定するかのような発言もしている。
 「敵」をつくり攻撃することで国民の不満をすくい上げる典型的なポピュリズム(大衆迎合主義)手法だ。
 しかし、これからは自由主義陣営の指導者である。妄言を発することは許されない。
 とりわけ看過できないのは、日韓両国の核武装容認発言だ。核廃絶への動きが国際社会の潮流になっていることを考えれば、明らかに逆行する。いらぬ緊張も高めかねない。即座に撤回を求めたい。
■国際協調を貫くべき
 米国が進めるべきは国際協調だ。各国もそれを望んでいる。
 安倍晋三首相はきのう、日米両国は「揺るぎない同盟国だ」と強調した。だが「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は同盟国との関係を見直す考えを表明している。
 日米関係では、在日米軍の駐留経費を日本が全額肩代わりすることが「公平な負担」だとし、撤退の可能性にも言及した。
 日本は日米地位協定の枠組みを超えて年1900億円に上る「思いやり予算」を支払い、沖縄は長く基地の過剰負担に耐えてきた。トランプ氏はこうした現実を知っているのか。
 ウクライナやシリアを巡って欧米と対立するロシアのプーチン大統領を「強い指導者」と評価している。こうした不用意な発言は混乱を招くだけだ。
 強引な海洋進出を図る中国に今後どう対処していくのか。
 国際秩序を守ろうともしない中ロへの対応を急ぐべきだ。そのためにはまず先進7カ国(G7)やEUなどとじっくり協議することが重要である。
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河北新報 2016年11月10日木曜日
社説:トランプ氏当選/排外・保護主義を憂慮する


 この大番狂わせは、世界にとって、そして日本にとって衝撃というほかはない。
 米大統領選は、共和党の実業家ドナルド・トランプ氏(70)が、民主党の前国務長官ヒラリー・クリントン氏(69)を退け当選を決めた。共和党にとっては8年ぶりの政権奪還となる。
 下馬評を覆し勝ったのは、公職経験ゼロで政界にしがらみのない「異端児」だった。このことは、格差拡大などを背景に、現状変革を期待しながらも実現できない既存政治に対する不満、不信が、かつてないほど米国社会で高まっている証しといえる。
 米大統領は世界に大きな影響を及ぼす「超大国」のリーダーである。トランプ氏は排外主義的、保護主義的な言動を繰り返してきただけに「トランプリスク」と呼ばれる国際関係や自由貿易・国際経済の波乱要因になりかねない。強く懸念せざるを得ない。
 もっとも、その言動は理念・現状批判先行型といえ、現実的な政策に乏しい。
 新しいトップとして超大国をどこへ導くのか。米国中心の国際秩序に挑むロシアと中国、核開発をやめない北朝鮮にどう対処するのか。テロ対策を含む国際戦略を軸に、その針路と新政権の姿を早急に明示するべきだ。
 日米同盟の強化を図る安倍政権にとっても予想外の結果だったに違いない。「公約」が実現されれば、日米関係に摩擦が生じるのは必至だ。
 選挙戦でトランプ氏は、日本に駐留米軍経費の負担増を求める考えを示し、応じない場合は在日米軍の撤退に言及したこともある。安全保障の根幹が揺るぎかねない。
 安倍政権が発効に向け国内承認を急ぐ環太平洋連携協定(TPP)からの「脱退」も主張してきた。仮に現オバマ政権で批准の議会承認が得られたとしても、新政権が発足すれば、ご破算となりかねない。アベノミクスにとって決定的な打撃となろう。
 政府は新政権の対外政策を巡る情報の収集・分析を急ぎ、TPPを含め対米方針を練り直す必要がある。
 優勢とされたクリントン氏が敗北したのは、不満・不信の対象である既存政治の象徴と見られたことに加え、国務長官時代の私用メール問題で最終盤に捜査が再開されたことなどが響いたとみられる。
 トランプ氏は、グローバル化で職を奪われた低所得の白人男性を中心に支持を集めたとはいえ、人種差別、女性蔑視の過激な言動が社会に深刻な「分断」を生んだ。そのことを真摯(しんし)に省みるべきだ。
 今回の選挙結果は、英国の欧州連合(EU)離脱決定にみられた孤立主義・保護主義が、この超大国でも大きな潮流となっていることを示す。深く憂慮せざるを得ない。
 と同時に、グローバル化の「明」と「暗」にしっかりと目を凝らすよう、われわれにも促しているのではないか。
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信濃毎日新聞 2016年11月10日
社説:トランプ氏勝利 危うさはらむ米民主主義


 米国はどこへ向かうのか。国際政治や経済にどんな影響を与えるのか。世界に衝撃が走った。混乱の拡大を懸念せざるを得ない。
 米大統領選は排外主義的な言動を繰り返す共和党のトランプ氏が勝利した。女性蔑視発言などの醜聞で厳しくたたかれても勢いを失わなかった。
 格差拡大を背景に、米国では中間層が弱体化した。党派や人種を巡る分断が深まっている。社会の変革を求める声は強いのに、既存の政治は対応できなかった。
   既存政治への不満
 政治経験のない実業家のトランプ氏が大接戦を制したのは、有権者の不信感がかつてなく高まったためとみていい。政界にしがらみがなく、雄弁に語る姿に現状打破の期待がかかったようだ。
 開票が始まる前はオバマ政権で国務長官を務めるなど、政治経験が豊富な民主党のクリントン氏が優勢とみられていた。結局、「既存の支配層」とのイメージを拭うことができなかった。公務で私用メールを使った問題も有権者の信用を落としている。
 トランプ氏は勝利宣言で「全ての国民の大統領になる」と強調した。が、選挙集会やクリントン氏との討論では具体的な政策をほとんど語っていない。掛け声は壮大でも、政権運営の方向性は不透明で予測すらできない。
 不法移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に壁を建設するとの考えを崩さない。イスラム教徒にはテロリストが交じっている可能性があるとして、厳格な入国審査が必要だ、などと排外的な主張を最後まで続けていた。
 こんな姿勢で国のかじ取りができるのだろうか。格差の解消に取り組めるのだろうか。
 何より懸念されるのは、自由と平等を建国の理念とする米国の歴史ある民主主義がむしばまれていく恐れがあることだ。トランプ氏の言動をこれまで以上に厳しく見ていく必要がある。
 米大統領選は、社会のありようを映し出す。オバマ氏が初当選した8年前も象徴的だった。アフガニスタン、イラク戦争や金融危機への対応で社会は疲弊していた。オバマ氏が訴える「変革」は国民の気持ちをつかんだ。
 大統領就任後は移民の受け入れや銃規制など、リベラルな政策を次々と主張。イスラム社会との和解や「核兵器なき世界」構想も打ち出し、共感を集めた。
 その理想や政策は内外であつれきを生むことになる。変革の機運は実らず、対立を先鋭化させる結果を招くことになった。
   深刻な分断を映す
 本来なら今回の大統領選でオバマ政権の政策評価や、米国の針路が問われなくてはならなかったはずだ。それなのに、トランプ氏とクリントン氏は非難の応酬に明け暮れた。「史上最低の大統領選」との声が出たほどだ。
 トランプ氏は相次ぐ醜聞の発覚で共和党の有力者からも見放された。普通なら有権者からもそっぽを向かれそうな状況だったのに、そうはならなかった。
 ここに、米社会が抱え込んだ問題の根深さがある。オバマ政権下で景気は上向いたものの、社会の中核を担ってきた白人の労働者を中心とする中間層には恩恵は広く行き渡らなかった。ヒスパニック(中南米系)や黒人などの少数派が重みを増す一方、白人の疎外感が強まっている。
 白人の怒りがトランプ氏を大統領の座に押し上げたといってもいい。今回の選挙によって社会の分断がさらに進み、対立がより激化しないか心配だ。
 移民国家の米国は岐路に立たされている。人種や性別、宗教などさまざまな壁を乗り越え、多様性を認め合う国こそあるべき姿ではないのか。トランプ氏には米国が培ってきた民主主義とは何か、問い直してほしい。
 経済や外交、安全保障に対する考え方も心もとない。どこまで深く理解しているか疑問が募る。
 経済では極端な保護主義を訴える。自由貿易を拡大する環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を宣言する見通しだ。米への輸出が多い日本や中国などを問題視し、輸入品への関税を引き上げる構えも見せる。貿易が低迷し、金融市場が混乱すれば、世界経済減速の要因を生むかもしれない。
   心もとない外交姿勢
 覇権主義を強める中国やロシアとどう向き合うか、イスラム諸国とどう付き合うか。これまでの発言の真意を分析したい。
 安保面では日本や韓国など同盟関係にある国に米軍駐留費の負担増を求めるとしている。安倍晋三政権は在日米軍を中国や北朝鮮に対する抑止力として重視する。対日姿勢がどう変化するか、目を離すことができない。
 トランプ氏は勝利演説で「全ての国と協調していく」と語った。選挙戦では「米国第一」と訴えていた。孤立主義に陥ることはないのか。国際情勢が混迷の度合いを深める中、米国の針路や役割を早急に示してもらいたい。
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[京都新聞 2016年11月10日掲載]
社説:トランプ氏当選  幅広い結束を実現できるか


 まさか、である。期待より不安が先に立ってしまう。
 米国の次期大統領に共和党の不動産王ドナルド・トランプ候補が当選した。ほとんどの接戦州で民主党の元国務長官ヒラリー・クリントン候補に競り勝ち、大方の予想を覆した。
 強大な軍事力と経済力で冷戦後唯一の超大国となった米国だが、国内には貧富の格差や移民の流入など課題が山積している。世界を見渡せば、中国が台頭し、イスラム過激派によるテロが頻発するなど情勢は目まぐるしく変化している。地球温暖化も深刻だ。
 こうした内外の難題に、政治経験のないトランプ氏がどう挑むのか。選挙中は「米国が第一」を掲げて内向きの主張を繰り返し、他国の事情などお構いなしといった態度だったが、数千発の核兵器の発射ボタンを握る米大統領の姿勢としては通用しない。
 同盟関係にある日本には、やりにくい相手と言えよう。在日米軍の駐留経費負担の増額を要求し、応じない場合は撤退も辞さずという。安倍晋三首相は近く補佐官を訪米させ「速やかに信頼関係を構築」したい考えだが、真意不明の放言を繰り返すトランプ氏の正体をつかむのは容易ではあるまい。
 TPPを急ぐな
 市場では、米国の経済政策の先行き不透明感が強まり、動揺が広がった。株価は大きく下落し、円高が急進した。政府と日銀は適切な手だてを講じてほしい。
 トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明しており、協定の発効が見通せなくなった。国会では関連法の審議が山場だが、日本だけが独走しても益はなく、トランプ氏が態度を変えるとも思えない。採決を急がず、しばらく静観するべきだ。
 トランプ氏の喫緊の課題は、米国内をまとめ、求心力を高めることだ。当選を受けて「全ての米国人の大統領になる」と宣言したが、一筋縄ではいくまい。選挙を通じて吹き荒れた「トランプ旋風」こそが、皮肉にも米国社会の亀裂の深さを物語っている。
 暴言を繰り返し、醜聞のつきまとうトランプ氏は共和党内でも異端児だった。それが党内予備選を勝ち抜き、優勢とみられていたクリントン氏を逆転したのは、変わりゆく米国社会に不安や不満、違和感を抱く人々の心をつかんだからに他ならない。
 「へどろをかき出せ」
 黒人やヒスパニック系の人口が増え、白人は少数派に転落する。経済のグローバル化で産業が海外に移転して地域は荒廃し、しかも低賃金の不法移民に仕事を奪われる。キリスト教文化を脅かすイスラム系移民も入ってくる。なのに、ワシントンの政治家や金持ちらの特権階級は既得権にあぐらをかき、きれい事を並べるばかり-。
 そんないらだちと怒りのマグマが、米国民の主流であるのに「無視され見捨てられ」てきた白人勤労者世帯に蓄積されていたのは驚きである。「(ワシントンの)へどろをかき出せ」の合言葉とともに一気に噴き出した感がある。
 一方、1990年代に大統領夫人となり、上院議員や国務長官を務めたクリントン氏は、私用メール問題もあって「へどろ」の象徴となった。豊かな経験がかえって逆風になったのは不本意だろう。
 クリントン氏が訴えたように、人種や民族、宗教など、多様な人々が助け合い、自由を享受できる社会こそが米国の魅力であり、強みである。「メキシコ国境に壁を築く」「イスラム教徒は入国禁止」といった排除と非寛容の論理で政治を進めるなら、幅広い米国民の結束は実現できまい。
 排外主義の横行懸念
 懸念するのは、トランプ氏のように「本音」をさらけ出して支持を得る政治家が世界各地で台頭していることだ。欧州連合(EU)離脱を主導した英国のジョンソン外相、強権的な麻薬取り締まりが非難を浴びるフィリピンのドゥテルテ大統領、移民排斥を訴えて躍進したフランスの極右・国民戦線のルペン党首らが挙げられよう。
 共通しているのは、現状に対する民衆の怒りを取り込み、排外的なナショナリズムを唱える点だ。
 世界全体を閉塞(へいそく)感が覆う。多様な価値観を認め合い、弱者を気遣う余裕が失われているのではないか。保護貿易や排外主義、福祉施策の切り捨てといった手段で現状を打開できるはずはない。トランプ氏は、オバマ大統領が手がけた銃規制や医療保険改革を見直す方針だが、時代への逆行である。
 今回の選挙で多くの米メディアはトランプ氏の危険性を指摘し、不支持を表明したが、米国民には届かなかった。政治不信と表裏一体といえる既存メディアへの不信の高まりは、日本の報道機関にとっても他人ごとではない。ジャーナリズムの真価が問われている。
 「チェンジ」と訴え、就任後は「核なき世界」の理念を掲げた黒人初のオバマ大統領の誕生から8年。その対極ともいえるトランプ氏の登場である。米国の急旋回には戸惑ってしまう。
 超大国の大統領には世界の平和と安定、繁栄に尽力する責務がある。まずは、トランプ氏にその自覚があるかどうか見極めたい。
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神戸新聞 2016/11/10
社説:トランプ氏当選/「史上最も醜い戦い」の末に


米国民の政治不信の深さが浮かび上がった。
 4年に1度の大統領選挙が終わり、次の指導者に共和党候補のドナルド・トランプ氏が選ばれた。意外な結末で、世界に激震が走った。
 民主党候補のヒラリー・クリントン氏との選挙戦は「嫌われ者同士」の史上最も醜い選挙戦と呼ばれた。大統領選は米国の将来と理想を語り合う機会である。それがどうだろう。伝えられる言葉の多くが個人攻撃と差別的な発言だった。各地で人々の怒りや失望などネガティブな感情が噴出した。
 8年前、「黒人も白人もヒスパニックもない。あるのは一つのアメリカだ。われわれならできる」と訴えるオバマ氏の演説に心を震わせた同じ国とは思えない。多様な価値観を認め合い、世界の人々を引きつけてやまない国はどこへ向かうのか。
政治家は信じられぬ
 今も慕われる共和党の故レーガン元大統領が、かつて民主党員だったことはよく知られる。左傾化する民主党に嫌気が差し、くら替えしたことについてこう語っている。「私が民主党を離れたのではない。民主党が私の元を去ったのだ」
 その言葉を借りれば今回、政治的手腕が未知数のアウトサイダー(門外漢)、トランプ氏を押し上げた人々の思いはこうなるのではないか。「政治家にはつくづく嫌気が差した。私が政治から離れたのではない。政治が私の元を去った」
 オバマ政権の下、米国経済がリーマン・ショックの混乱から立ち直る過程で取り残された人々がいる。不安定な生活を強いられ、「強いアメリカの復活」を訴えるトランプ氏に共鳴する白人労働者たちだ。既存の政治家には期待できない、一部の特権階級のために働いていると考える。民主党の代表選挙で「政治革命」を掲げたバーニー・サンダース氏を支持した若者たちもそうだ。
 クリントン氏はこうした声に配慮し、富裕層への課税や中間層を押し上げる政策、教育への支援を打ち出した。だが、ウォール街から多額の献金を受け、既得権益を守る政治家の代表格というレッテルをはがすことはできなかった。女性候補への抵抗感が根強かったとの見方もある。
 過激な発言で注目を集めたトランプ氏は米国第一主義を掲げ、不法移民の強制送還や保護主義的な貿易政策など内向きな訴えを繰り返してきた。難民の受け入れにも否定的だ。とはいえ、公の場で政策らしい政策をほとんど口にすることはなく、雇用創出策についても不透明だ。
 政治家は信頼できないという人々の声にどう答えるのか。一つはレーガン元大統領のように優れた政策スタッフを集め、その声によく耳を傾けることだろう。そのためには、主要幹部がトランプ氏の不支持を打ち出した共和党の協力が欠かせない。今後の動きに注目したい。
容易でない国内融和
 米国発のグローバル化の動きは、世界で地方の衰退や経済的な格差の拡大を引き起こした。日本も例外ではない。皮肉なことにその動きが米国を分断している。
 トランプ氏は昨夜の勝利演説で、「分断の傷を癒やし、全ての国民の大統領になる」と語り、国内融和を呼び掛けた。だが傷は深く、修復は容易ではない。選挙戦で人々の不満や怒りを噴出させ、自らの力としたのはトランプ氏自身である。
 今後、トランプ氏には不断の努力が求められる。その際は、国内外に新たな敵をつくり出し国民を感情的に駆り立てるのでなく、民主的な手続きと対話によって融和を探る地道な手法でなければならない。
 選挙戦の最中に、ワシントンの政府や議会関係者にアジア情勢について話を聞く機会があった。日米同盟の重要性は認識しているものの、環太平洋連携協定(TPP)や北朝鮮の核開発、中国の海洋進出などの問題については外交政策としての優先度が低いことがうかがえた。
 トランプ氏勝利の結果、米国内の融和が最優先の課題となった。日本はTPPについては実現が見通せなくなったと考え、国内の議論を深めるべきだろう。トランプ氏は同盟国に米軍駐留経費の負担増を求めると主張してきた。新政権と対話を進めながら戦略を練り直す必要がある。
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中国新聞 2016/11/10
社説:米大統領にトランプ氏 「国際協調」を忘れるな


 世界中に激震が走った。米大統領選で、直前まで不利とみられていた共和党候補のドナルド・トランプ氏が、民主党候補のヒラリー・クリントン氏との接戦を制した。
 メキシコ国境に壁、イスラム教徒の入国禁止など、これまでその過激な発言が物議を醸してきた。しかし、きのうの勝利宣言では「分断の傷を修復し、ともに結束していく」と神妙に語っていた。選挙中の発言は勝つためのパフォーマンスであり、大統領の座に就けば現実的な政策を取ることを示唆したとすればありがたいのだが。
 世界各国に不安が拡散している。きのう東京の外国為替市場でも円高が加速、日経平均株価は900円以上下落した。トランプ氏は超大国の指揮に当たる前に、世界の政治と経済の不安材料となっていることを謙虚に受け止めてもらいたい。
 トランプ氏は当初、泡沫(ほうまつ)候補とみられていたが、常に予想を覆してきた。投票が迫る先月にも女性蔑視発言やセクハラ疑惑が浮上した。普通なら米大統領としては不適格と見なされていたはずだ。
 ▽既存政治に不満
 しかしトランプ氏の場合は集票にプラスに働いたようだ。背景には「ワシントン政治」への不満の高まりがあるのは間違いない。クリントン氏有利とみられていたミシガン州などで票を伸ばしたのが象徴的だ。「ラストベルト(さびた工業地帯)」と呼ばれる地域であり、自動車や鉄鋼産業の衰退で暮らしが上向かず、白人の労働者層を中心に怒りの声が広がっていた。
 トランプ氏が「ウォール街の言いなりにはならない」と政治支配層をこき下ろす姿に有権者は留飲を下げ、現状打破への期待を託したといえる。
 ただトランプ氏は有名な資産家ではあるが政治経験はない。世界の超大国を本当に率いることができるのか。選挙戦で鮮明となった社会の分断を修復するのも並大抵のことではない。
 ▽「核なき世界」は
 外交手腕も当然、問われる。トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、「米国が世界の警察官であり続けることはできない」などと述べてきた。
 8年のオバマ外交の成果を、どうするつもりなのか。核開発疑惑のあったイランと和解するなど、中東などで進めてきた国際協調主義から大きく転換することもあり得よう。ただ独善的なふるまいをすれば、ただでさえ不安定化している地域への影響は大きい。
 国際社会と足並みをそろえる大切さを再認識すべきだ。例えば地球温暖化対策である。トランプ氏は発効したばかりの新たな国際枠組み「パリ協定」からの離脱を公言してきた。仮に断行するなら米国の信用や影響力は明らかに損なわれる。
 むろんオバマ政権が掲げてきた「核兵器なき世界」の行方も憂慮される。トランプ氏はかつてテロ組織に対して核兵器を使用することを示唆し、日本や韓国の核武装を容認する考えを示したこともある。ひとたび核兵器が使われれば、どれほど悲惨な事態を引き起こすかを理解していないとしか思えない。
 ▽TPPはどこへ
 こうしたトランプ政権と日本はどう向き合うのか。対米政策の見直しは避けられまい。
 トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)に強く反対し、就任後に脱退する意向を明言している。上下両院で共和党が多数となる状況とも併せ、発効の道のりは難しくなったといえる。安倍政権にとって大きな打撃となるのは必至だろう。
 日米同盟への余波も考えられる。トランプ氏は今後、在日米軍の駐留コストの負担増などを求める可能性が高いからだ。防衛費のさらなる膨張になるのであれば看過できない。
 安倍晋三首相はきのう「日米同盟の絆を一層強固にする」との祝意をトランプ氏に送った。外交儀礼とはいえ、果たして危機感は足りているのだろうか。日本としてトランプ氏の真意と想定される政策の方向性を早急に見定め、外交戦略を練り直してもらいたい。
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西日本新聞 2016年11月10日 10時39分
社説:トランプ氏勝利 内向き米国はどこへ行く


 世界が衝撃を受けた。1年前に誰がこの結果を予測しただろう。
 米大統領選で、出馬当初は泡沫(ほうまつ)候補とみられていた共和党のドナルド・トランプ氏(70)が、民主党のヒラリー・クリントン氏(69)を破った。
 トランプ氏は「不動産王」と呼ばれる実業家で、政治経験はゼロだ。差別的かつ排外的な暴言を連発し、政策も実現性に乏しい。選挙戦では「大統領の資質に欠けている」との批判を浴び続けた。
 しかし、米国の有権者はそんなトランプ氏を大統領に選んだ。
 米国に何が起きたのか。そして「トランプの米国」はどこへ向かうのか。
 ●分断の傷どう癒やす
 トランプ氏を大統領に押し上げたのは、経済のグローバル化の中で没落して
いく米国中間層の怒りのエネルギーだったといえよう。
 その中心は白人労働者だ。米国の製造業空洞化によって、失業や低賃金労働を強いられている。子どもを大学に入れるのにも、医療サービスを受けるのにも、多額のお金がかかる米国社会で、下層への転落におびえている。
 一方で、グローバル化の恩恵を受けるエスタブリッシュメント(既成支配層)たちは、ますます富を蓄えている。極端なまでに広がった格差を目の前にして、中間層は「自分たちは見捨てられている」との思いを募らせていた。
 そこへ登場したのがアウトサイダーのトランプ氏だ。既成支配層を激しく攻撃するトランプ氏は彼らにとって「最後の希望」と映ったのだろう。トランプ氏が繰り出す一連の過激な発言や暴言さえ白人労働者層には本音の代弁として許容された。トランプ流の扇動的ポピュリズム(大衆迎合主義)が政治エリートのクリントン氏もメディアの批判も吹き飛ばした。
 トランプ氏の当選で中間層の思いは遂げられたが、一方で「史上最悪の選挙戦」が米国に与えた傷は深い。攻撃的な言葉が飛び交い、社会のさまざまな亀裂が拡大した。マイノリティー(少数派)に対する差別の「パンドラの箱」が開いた感さえある。
 ばらばらになった米国をどうまとめ直し、社会の安定を取り戻すのか。トランプ氏は勝利演説で「私たちは分断の傷を癒やしていかなければならない」「私は全ての国民の大統領になる」と語った。その言葉が本当なら、トランプ氏は選挙戦中に自分が侮辱した相手に謝罪し、敵対した人々と謙虚に向き合うべきである。
 ●世界への責任果たせ
 日本を含む国際社会は「トランプ・リスク」という新たな不安定要因を抱える。政策や言動が予測困難な指導者が超大国を率いることになったからだ。実際にトランプ氏が唱える政策は「メキシコ国境に壁を築く」など、実現性が疑わしいものが少なくない。
 トランプ氏は選挙戦で「米国第一主義」を打ち出した。全体像ははっきりしないが、外交での孤立主義、経済での保護貿易主義の傾向が色濃い。グローバル経済についていけず、アフガンやイラクでの戦争に疲れた米国民の「内向き」志向を強く反映している。
 トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)について「国内の雇用を奪う」と批判し、「大統領就任日に脱退を表明する」と断言している。安全保障でも「米国が日本や韓国を防衛している対価を、彼らは払っていない」として、日本などの同盟国に米軍駐留経費の負担増を求める姿勢も示唆した。同盟国との摩擦も予想される。
 オバマ政権が基軸とした国際協調主義から、大きく転換することになりそうだ。対中国を意識した「アジア重視戦略」が継続されるかどうかも不透明である。米国が自由経済と民主主義国家のリーダーとして維持してきた国際秩序に変化が生じる可能性がある。
 相対的な国力に衰えがみられるとはいえ、米国はまだまだ世界の安定に最も重要な役割を担う国だ。それが「米国第一」だからといって突然責任を放り出すことが許されるのか。そもそもトランプ氏がどこまで現在の国際情勢を理解しているかも疑問だ。
 トランプ氏は早急に「米国はどういう針路を取るのか」を世界に向けて提示する必要がある。「壁」を築いてその中に閉じこもるのではなく、世界に対する責任を果たす米国であり続けてほしい。
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西日本新聞 2016年11月11日 10時56分
社説:日米関係 トランプ・リスクに備えよ


 米大統領選で政治経験ゼロの実業家ドナルド・トランプ氏が当選したことで、これからの日米関係に不透明感が漂っている。
 視界不良の原因は、トランプ氏が掲げる外交政策が場当たり的で、どういう国際社会を構想しているか判然としないからだ。
 トランプ氏が唱える「米国第一主義」は、米国の大統領としては当然の原則だろう。しかし、一連の過激な主張などと併せて読めば、「米国が目先の損得勘定に基づき、好きなように振る舞う」という意味に思える。
 最大の懸念は日米同盟への影響だ。トランプ氏は選挙中、日米安全保障条約について「米国が攻撃されても日本は何もしない。不公平だ」と述べた。日本に米軍駐留経費の負担増を要求し、応じない場合は撤退も示唆している。
 日米安保を巡る交渉の積み上げを一切無視した乱暴な主張である。日米同盟は北東アジア全体の安定維持の公共的枠組みであるのに、単に日本防衛のためのものだと誤解しているのではないか。
 トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)脱退や、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」からの離脱も表明している。本当に実行すれば、「ちゃぶ台返し」という言葉が当てはまる大転換である。
 トランプ氏の一連の公約について、日本政府には「選挙向けであり、当選後はもっと現実路線に転換するのでは」と期待する向きもあるが、楽観的過ぎはしないか。
 安倍晋三首相は10日、トランプ氏と電話会談し、来週にもニューヨークで会談する方向で合意した。日本側が本人やブレーンとなる人物に接触し、日米関係やアジア情勢について正確な情報をインプットすることが急務だ。「トランプ大統領」のもたらす不確実性のリスクに備える必要がある。
 日本政府としては、もっと主体的にアジアの安定に向けた構想を検討し、その実現をリードする姿勢が求められる。米国と歩調を合わせることに慣れきった日本外交にとっては試練だが、自立的な外交力を高める機会でもある。
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