2017-01-01(Sun)

格差と分断 克服へ一歩を 各紙社説等(2) 2017年1月1日

分断を修復する努力こそ  分断克服し共存への対話を 民主主義は試練の時だ
米軍優先に終止符打とう 先人に学び局面打開を


<各紙社説>
北海道新聞)あすへの指針 分断を修復する努力こそ(17/1/1)
河北新報)ポピュリズムの時代/格差と分断 克服へ一歩を(17/1/1)
信濃毎日新聞)支え合う社会 世代間の信頼を土台に(17/1/1)
京都新聞)新年を迎えて  分断克服し共存への対話を(17/1/1)
神戸新聞)生きる権利/個人の危機のときこそ出番(17/1/1)
中国新聞)ポピュリズムの世界 民主主義は試練の時だ(17/1/1)
琉球新報)新年を迎えて 「復帰の誓い」今こそ 米軍優先に終止符打とう(17/1/1)
沖縄タイムス)[正念場の年に]先人に学び局面打開を(17/1/1)




以下引用



北海道新聞 2016/01/01 08:55
社説:あすへの指針 分断を修復する努力こそ


 世界は転換点に立つ。そんな新年の幕開けである。
 国際社会は昨年、二つの「番狂わせ」に揺れた。
 まず6月、英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択した。今年から始まる交渉が引き金となって、EU内に遠心力がさらに働くか。予断を許さない。
 11月の米大統領選ではトランプ氏が勝利した。「米国第一主義」を唱え、超大国を孤立主義に導く可能性をはらむ。
 トランプ氏は今月20日に就任するが、自由主義経済と民主主義社会のリーダー国が内向きに転じれば、世界秩序は一変する。
 流動化しかねない国際情勢と日本も無関係ではいられまい。国内的にも、少子高齢化で社会の硬直化が進む。問題山積だ。
 難局をいかに乗り越えていくか―。2017年は試金石となる。
格差は「内向き」生む
 英国のEU離脱とトランプ氏当選で目の当たりにしたのは、社会が分断されている現実だ。経済のグローバル化がもたらした格差が国民の間に深い溝を生んでいる。
 たとえば英国だ。欧州の金融センターとしてヒト、カネ、モノが国境を越えて自由に動くグローバル化の恩恵を享受していると見られていた。だが、実際は違った。
 「多文化主義」というEUの基本理念の下、流入する移民や難民に自分たちの仕事を奪われるとの危機感が足元で高まっていた。それを指導層が見誤り、国民投票が不満や怒りのはけ口になった。
 政治経験ゼロのトランプ氏を米大統領に押し上げたのも、工場が海外に移転し職や収入を失った白人層だ。グローバル化の「痛み」に手を打ってこなかった既存のワシントン政治への反乱と映る。
 新自由主義が色濃いグローバル経済は競争原理むき出しで、「勝ち組」「負け組」を生みやすい。放置すればさまざまな場面で摩擦を起こし、はざまで多様性を認める寛容さが失われていく。
 本来、二極化した層の接点を探るのは政治の役割だ。しかし不平や不満が強いと、それをあおって独り善がりな政策を推し進めようとするポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭する。
 厄介なのは、ポピュリズムが排外的なナショナリズムと容易に重なり合うことだ。英米両国の投票結果が実証している。
 押し寄せる難民へのいら立ちやテロへの恐怖から、欧州で極右勢力が伸長するのもそのためだ。
 米国と欧州に内向きのベクトルが働くと、不戦の誓いから出発した国際協調の流れを掘り崩しかねない。そうなれば、ロシアや中国が覇権主義の姿勢を強めるばかりか、中東情勢もより混迷しよう。
■社会保障の整備急げ
 格差分断は日本でも深刻だ。
 安倍晋三政権は「1億総活躍社会」を掲げる。しかし、成長ばかり追求するアベノミクスで、待遇が不安定な非正規が増え続け、6人に1人が貧困に直面している。
 そうした格差を埋めるはずの社会保障は上向かない景気や少子高齢化によって劣化が著しい。雇用や所得再配分のあり方を含め、見直しを急がねばならない。
 にもかかわらず、安倍政権はグローバル化を加速させる環太平洋連携協定(TPP)に固執する。成長を生み出すためと、ごり押ししたカジノ解禁も拝金主義を助長しかねない。逆行してないか。
 先の見えない閉塞(へいそく)感の矛先は、身内の弱者へ向かう。
 「土人」。沖縄の米軍ヘリパッド予定地で、建設を阻止しようとした反対派に向かって、警官が耳を疑うような言葉を浴びせた。
 怒号飛び交う場面とはいえ、国民を守るはずの権力側の物言いに不穏な兆候を感じざるを得ない。
■グローカルな視点を
 仮に成長しても、亀裂ある社会は健全ではない。IT(情報技術)の進歩などでグローバル化は止められないにしろ、弱肉強食型の経済構造は改めねばならない。
 同時に考えたいのは、社会の分断を修復する手だてである。
 「グローカル」という言葉がある。グローバルとローカルを掛け合わせた造語である。世界規模の視点で考え、地域で活動することを意味する企業戦略だ。
 この用語に新たな発想を吹き込みたい。グローバル化で生まれた格差分断をローカル的な包摂で是正する―。そんな努力である。
 顔の見える地域社会は「競争」よりも「共生」を優先する。身近で雇用環境を整え、福祉の拡充も目指したい。そのためには国の権限や財源、そして人材を地方に大幅に移すのが欠かせない。
 地方に力がつけば新たな試みが出てこよう。移民受け入れを検討してもいい。1次産業を核とした地産地消システムも構築したい。鉄路存続が危ぶまれ、疲弊する道内も活路が開けるはずだ。
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河北新報 2017年01月01日日曜日
社説:ポピュリズムの時代/格差分断 克服へ一歩を


 米国の経済学者ジョン・ガルブレイス氏(1908~2006年)が、著書『不確実性の時代』を世に問うたのは1977年のことだった。
 歴史的な視点から世界経済を分析しながら、もはや人々の判断力の支えとなるような「哲学」が存在し得ない時代に入ったことを解き明かした。
 「人類が現に直面している諸問題の驚くべき複雑さを考えるなら、前世紀の確実性が残っていると考える方が、かえっておかしいくらいである」
 出版から今年でちょうど40年。ガルブレイス氏が指摘した不確実性の流れは加速を続け、今や国際社会は「カオス」(混沌(こんとん))のまっただ中にあると言っても過言ではあるまい。
 その渦をかき回すのが「ポピュリズム」(大衆迎合主義)である。昨年起きた象徴的な出来事は世界に衝撃を与えた。
 英国は国民投票の結果、欧州連合(EU)からの離脱を決めた。米大統領選では当初、泡沫(ほうまつ)候補扱いされていたドナルド・トランプ氏が本命のヒラリー・クリントン氏を打ち破った。
 今年は欧州で重要な国政選挙が相次いで予定されており、台頭する排斥主義のポピュリスト政党から目が離せない。
 単純明快な論理を振りかざすリーダー、排他・排外主義の主張、群衆の情念に訴える政治手法…。いやが応でも、この手ごわい「怪物」と向き合わなければならない時代を迎えた。
 地殻変動を起こした要因は何なのか。経済のグローバル化の反動だろう。
 一握りの人々に巨万の富がもたらされる一方、取り残された者との格差は広がっていく。雇用や生活の不安を背景に、移民や難民に対する排除が声高に叫ばれ、批判の矛先はエリートの支配層に向けられた。
 現代では国境を越えた経済活動は不可避であって、孤立主義は成り立たない。しかし、各国の指導者は的確な「羅針盤」を持たないまま、グローバル化の荒海で漂流を続けているのが実態ではないか。日本もまた例外ではなかろう。
 「アベノミクス」の恩恵は地方に滴り落ちておらず、富裕層と貧困層の二極分化に拍車がかかる。非正規労働者の増大、高齢者、子どもの貧困が社会問題化している。このままでは社会の土台が揺るぎかねない。
 ナショナリズムをてこに、排外主義が付け入る下地は十分にある。実際、特定の民族などへのヘイトスピーチ(憎悪表現)の対策法までつくられた。
 不確実性の中にあって、確かなものは何か。それは「自分」という存在だろう。自ら何をなすべきか、が問われる時だ。
 国家に自らの利益と自由を求めるだけでは、問題は解決しない。一人一人がそれぞれの立場で格差と分断を乗り越え、連帯、共存に向けた新たな一歩を踏み出すことが求められる。
 「ポピュリズムはデモクラシーの後を影のようについてくる」。こんな言葉がある。今年は総選挙があるやも知れぬ。ポピュリズムの「正体」を見破る目も養わなければならない。
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信濃毎日新聞(2017年1月1日)
社説:支え合う社会 世代間の信頼を土台に


 師走の県庁ロビー。
 困窮家庭やこども食堂に届けるため、不要な食品を持ち寄る「フードドライブ」が行われた。
 県職員のほか市民が次々と訪れ、分類ケースに食品がたまっていく。クリスマス用のお菓子の詰め合わせ、正月に向けての切り餅も寄せられた。
 レトルト食品や缶詰を入れた袋を手にさげ、ストックで体を支えながらやってきた男性がいた。
 千曲市の59歳。ポリオで右足が不自由だ。長野市内の勤め先の昼休みに、左足でアクセルを踏めるようにした車を運転してきた。
   <小さな取り組みでも>
 職場では重い物を同僚が持ってくれる。地域では常会の草取りや水路清掃を手伝ってもらう。
 支えられるだけでなく、自分のできることで支えたい。その思いが県庁へ足を運ばせた。
 一つ一つの取り組みは小さくても、支え合いの心は、持続に黄信号がともる社会保障制度を立て直す芽になるのではないか。
 高齢になって働けなくなったり、病気や要介護、貧困状態になったりした時、社会全体で助け合う仕組み。それが社会保障だ。
 全国民を健康保険や年金の対象とする「皆(かい)保険・皆年金」は、池田勇人首相が国民所得倍増計画を発表した翌年の1961年に始まった。
 高齢者が少なく、高度経済成長が進んだ時代。税収や社会保険料は増え、年金などの給付の水準は大幅に上がっていった。
 だが、少子高齢化に転じ、経済が低成長時代に入っても制度の骨格は大きく変わらなかった。給付水準を保つため国債という借金を雪だるま式に膨らませた。
 国と地方の借金は1千兆円を超え、なお増える。その負債は若い世代に引き継がれる。
 政治が、投票率の高い高齢者を強く意識し、優遇策を続けてきた結果と指摘される。
 年金は、現役世代の保険料と公費で高齢者を支える賦課方式だ。「仕送り」と表現される。
 高齢者が増え、若い世代が減っていく人口構造では、仕送りする側の負担が増す。将来、受け取る年金の水準が下がることへの不公平感や不信も根強い。
 国民年金の保険料未納が多いのは、その裏返しともいえる。厚生労働省の調査では「経済的に支払うのが困難」に次いで「年金制度が信用できない」が多数だった。
   <社会保障の分断>
 先月に成立した年金制度改革法で、年金の支給額は抑える方向に向かう。
 現役世代の賃金が下落すれば支給額も必ず減額する。少子高齢化の進展に合わせて自動的に支給額を減らす「マクロ経済スライド」という仕組みにより、デフレで実施しなかった分を景気回復時にまとめて抑制する。
 医療、介護も比較的所得の高い高齢者を中心に自己負担が新年度から上がっていく。
 制度の見直し自体は避けられないとはいえ、昨夏の参院選ではほとんど議論されなかった。しかも、低年金の人への給付や65歳以上の介護保険料の軽減拡充は先送りされた。
 今度は高齢者から不安や反発の声が上がっている。
 今回の見直しもほころびを繕ったにすぎない。次世代へのつけ回しをできるだけ減らし、本当に必要な人に支援が行き届くようにするにはどうしたらいいか。
 政治が将来を見据えて改革に動くには、世代間の信頼が築かれることが前提になる。
 県庁のフードドライブから2週間後の祝日。長野市の教育会館で「信州こども食堂」が開かれた。
 豚汁やつきたての餅を使ったお汁粉、洋菓子店から提供されたクリスマスケーキなどが並んだ。県庁で集めた食品も一部使われた。
   <顔が浮かぶ支援で>
 子どもと若い親など約100人がテーブルを囲む。食材の提供者に感謝の気持ちを込めて手を合わせ、「いただきます」。腹話術の披露もあり、子どもたちの歓声が響いた。
 参加者の中に高齢者の姿もあった。1人暮らしの87歳の女性は「子どものにぎやかな声が聞こえるのがいい」と話した。
 食事を無料か低額で提供する「こども食堂」は、東京の下町で4年前に始まった。共感を得て全国に広がっている。
 長野県内でもNPO法人「ホットライン信州」が運営に関わっただけで昨年、116回を数えた。子どもからお年寄りまで延べ5千人近くが参加した。
 子どもたちが支えられていることを実感すれば、大人になって積極的に支える側に回るだろう。高齢者が子どもの笑顔を見れば、未来のために何とかしたいという思いを強くする。
 社会保障制度は支えている人たちの姿が見えない。こうした市民の活動によって顔の浮かぶ支え合いが広がっていけば、世代間の溝を埋め、制度改革への合意をつくる土台になる。
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[京都新聞 2017年01月01日掲載]
社説:新年を迎えて  分断克服し共存への対話を


 新年を迎えた。明るい夢や希望を語るべきだが、やや暗い話になることをお許し願いたい。
 「日本の没落」を意識するときがある。少子高齢化が進み、人口は減少に転じている。米国を追い上げた経済力は中国に抜かれ、低成長が続く。所得は伸び悩み、格差拡大で相対的貧困率は16%に達する。公的債務は1千兆円を超える一方、医療・福祉費は膨らみ続け、年金も目減りする。
 こうした現実は、旧式の言い方を借りれば「国力の衰退」を表している。それを痛感しているのは他ならぬ安倍晋三首相だろう。
 「日本を取り戻す」(2012年衆院選)、「私たちの自信と日本の誇りを取り戻そう」(13年参院選)、「強い経済を取り戻せ」(14年衆院選)、「誇りある日本を取り戻す」(16年参院選)。
 主な選挙のたびに繰り返される「~を取り戻そう」という首相のメッセージからは、日本の現状に対するいらだちと、過去の繁栄への郷愁が読み取れる。
 かつて欧州諸国も自信を失い、没落の不安に覆われた時代があった。人類史上未曽有の惨禍をもたらした第1次世界大戦が終わった後のことだ。
 危うい反知性主義
 当時、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットは著書で、野蛮な大衆社会では「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は排除される」とし、没落の不安を背景に反知性主義に陥った大衆の反逆(蜂起)が危険な急進主義を招くと論じた。警告どおり、欧州はやがて非人間的なファシズムに踏みにじられることになる。
 この両大戦間の欧州の空気はどこか現代に似ていないだろうか。
 英オックスフォード出版局は16年の「今年の単語」にpost-truth(ポスト真実)を選んだ。欧州連合(EU)離脱を巡る英国民投票や米大統領選の際、真実や事実より個人の感情や信念が政治を動かした風潮を表す。「本音の暴言」を吐き続けたドナルド・トランプ氏が「見捨てられた白人勤労世帯の怒り」を結集して勝利した現象は、あたかも「大衆の反逆」の現代版に見える。
 日本でも同様の風潮を感じる。安倍首相と懇意で、時に過激な発言が圧倒的な人気を呼んだ橋下徹・前大阪市長は最近のインタビューで「民主政治の本質は大衆迎合だ」と言い切っている。
 インターネット上には、中国・韓国を誹謗(ひぼう)中傷し、日本や安倍首相を賛美する記事やコメントが氾濫する。これに異を唱えると「反日」「売国」のレッテルが張られる。まさに反知性主義である。
 これに対しオルテガは「自分を疑わず、うぬぼれて」いる大衆ではなく、「つねに自分を相対化し、自己批判し、克己心を持って」いる市民たれと訴えた。
 「市民」の精神で
 同感である。いま私たちがとるべき態度は、自分にとって心地よい情報や意見を選び、信じることではない。ありのままの現実と向き合い、異論に謙虚に耳を傾け、自分の頭で考えることだ。
 今年は憲法施行70年、日中戦争80年、ロシア革命100年…と、歴史的な節目がいくつも控えている。こうした機会に過去を見つめ直し、「市民」の精神で日本の未来像を描いていきたい。
 そのために鍵となる課題が二つある。ひとつは憲法と戦後社会をどう評価するかである。
 「戦後レジームからの脱却」を目指す安倍首相はこれまで、愛国心を強調する教育改革を進める一方、表現の自由を制約しかねない特定秘密保護法を制定し、安全保障法制で違憲が疑われる集団的自衛権を解禁してきた。一連の流れが現行憲法の理念に必ずしもそぐわないのは明らかだろう。
 国会で改憲論議の本格化が見込まれるが、世論調査では国民の過半数が9条改正に反対している。日本らしい国際貢献のあり方とともに、戦後の平和と繁栄に果たした憲法の役割を改めて考えたい。
 歴史認識の溝深く
 もうひとつは、戦後70年余を経てなお関係国との和解を阻んでいる歴史認識ギャップである。北方領土を巡るロシアとの交渉や安倍首相の米ハワイ真珠湾訪問を振り返れば、先の戦争に対する日本の立ち位置の特殊性が際立つ。
 歴代政権は「痛切な反省と心からのおわび」を繰り返し表明してきたが、安倍首相ら多くの議員が「侵略戦争ではなかった」とする議員連盟に加わっていては不信を払拭できまい。戦没者追悼は当然としても、幅広い国々と和解を進めたいのなら相当の覚悟が要る。
 16年は世界でさまざまな亀裂と分断が顕在化した年だった。英国のEU離脱、米大統領選、イスラム過激派によるテロなどは世界に大きな衝撃を与えた。その底流にある人々の憤りと閉塞(へいそく)感が、ゆがんだナショナリズムを伴って各地で噴出してこないか懸念する。
 哲学者の内田樹・京都精華大客員教授によると、オルテガは対話を通じて「理解も共感も絶した他者と、それでもなお共存してゆく能力」が分断を克服する基礎だとした。まさに現代に生きる私たちに必要な力であり、「没落」への処方箋ではないだろうか。
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神戸新聞 2017/01/01
社説:生きる権利/個人の危機のときこそ出番


 憲法が誕生して70年。その精神は戦後日本の繁栄と安定を支えてきた。だが、人間でいえば古希を迎え、新しい憲法を目指す動きは急だ。
 改正に賛同する勢力は衆参両院で国会発議に必要な3分の2を超え、機能停止状態だった両院の憲法審査会も再開された。議論が新しい段階に入った憲法について考えたい。
       ◇
 「また起きてしまった」
 兵庫過労死を考える家族の会共同代表の西垣迪世(みちよ)さん(72)は、11年前に亡くなった息子のことを思い浮かべながら、その死に胸を痛めた。
 広告大手電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が過労自殺していたことが昨秋に明らかになった。高橋さんは「もう体も心もズタズタだ」と会員制交流サイト(SNS)などに記していた。
 西垣さんの長男和哉(かずや)さん=当時(27)=は大手IT企業でシステムエンジニアとして働き、長時間労働からうつ病を発症、大量の薬を服用して死亡した。
 2人には、ネットでSOSを発信していた点、母子家庭で育った点など共通する部分が少なくない。
 高橋さんらに違法な残業をさせていたとして労働局は年末、労働基準法違反の疑いで電通と幹部を書類送検した。社長は辞任を表明した。
 和哉さんも37時間連続など過酷な勤務だった。「もっと楽しいことがしたい。もっと健康的に生きたい」。ブログの言葉が痛々しい。
 悲劇を繰り返さないため、西垣さんは全国の遺族らとともに署名集めなどの運動を続け、2014年に過労死等防止対策推進法が成立した。それから2年余り。法施行後も過労死は絶えない。
■日本のオリジナル
 「日本人って何でこんなに働くのでしょうかね」と和哉さんが書いていたのを思い出し、西垣さんはむなしさを募らせる。中学校で習った憲法には「国民の命は守られるべき」とうたわれていたはずだ。
 13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は公共の福祉に反しない限り「最大の尊重を必要とする」とある。25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、国に「生存権」の実現に努力する義務を課していた。人間らしく働く権利を保障する27条もある。
 こうした条文が守られていれば過労死など起こらないだろう。
 人間らしく生きることを国に求める権利は社会権と呼ばれる。中でも生存権を保障する25条は重要だ。
 憲法の制定過程を振り返ってみたい。25条1項は当初の連合軍総司令部(GHQ)案にはなく、戦後、国会での修正協議で加えられた。
 1946年8月、衆議院の憲法改正の小委員会で社会党だった森戸辰男氏らが発案した。森戸氏は民間の憲法研究会のメンバーでもあった。
 戦前、ドイツ留学でワイマール憲法を学び、その生存権思想を採り入れたとされる。だが、何より森戸氏を動かしたのは、故郷の広島で原爆の災禍に苦しむ人々の姿、各地で生活に困窮する国民の姿だった。
 憲法は「米国の押しつけ」の側面が強調されがちだ。しかし、9条と並ぶ重要な支柱ともいわれる25条は、論議を重ねた末に日本が独自に加えたことを記憶しておきたい。
 25条に基づき生活保護法などの法律があり、年金や医療などの社会保障制度が整備されている。
■絶えず実現を図る
 憲法は空気のようなものだという。生きていく上で欠かせないのに、普段は存在を意識することは少ない。だが、個人の自由や権利、そして生命が危うくなる事態に陥ったときこそ、憲法の出番であろう。
 過労死で息子を亡くした西垣さんは2009年、労災認定を求めて国を相手に訴訟を起こした。
 死者の尊厳を求めた裁判で、立ちはだかったのは国だ。勝訴したが、西垣さんには納得しがたい気持ちが残った。「国民を守ってくれるはずの国がなぜ壁になるのか」
 命を守る国になってほしいとの思いで過労死根絶の活動を続ける。
 それは憲法が保障する権利を守るための運動ともいえる。
 憲法学者の故奥平康弘さんはこんなふうに述べていた。
 「憲法というものは世代を超えた国民が、絶えず未完成の部分を残しつつその実現を図っていくコンセプト(概念)である」
 国民が自らの権利を保障するために国家という仕組みの運用のありようを定めたものが憲法だ。条文は抽象的な文言もあるが、国民が憲法に向き合い、活用していく中で、その精神が力を発揮する。
 今、憲法は暮らしにどう生かされているのだろうか。改憲の機運が高まる中、兵庫の現場から見つめ直してみたい。より幅広く、より深い議論につなげるために。
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中国新聞 2017/1/1
社説:ポピュリズムの世界 民主主義は試練の時だ


 この「熱狂」は、これからどこへ向かうのだろうか。8年前、「核兵器なき世界」を掲げるオバマ氏を大統領に選んだ米国民が今度は、核戦力の強化を公言するトランプ氏を選んだのである。
 むろん両氏の支持層は異なる。トランプ氏を押し上げた人々の平均像は、製造業を中心に安定雇用を得ていた白人男性である。「ラストベルト(さびた工業地帯)」という言葉に代表される、没落しゆく中間層だ。対して、オバマ氏の側は、黒人をはじめとするマイノリティーではなかったか。
 とはいえ「アメリカ・ファースト」とトランプ氏が叫ぶと、「アメリカは世界の警察官ではない」というオバマ氏の訴えが反響して聞こえる―。米国の保守思想に詳しいジャーナリスト会田弘継さんは、かねてそう読み取っていた。
 ▽憎悪呼ぶ危うさ
 米国は米中枢同時テロ以降、膨大な戦費をつぎ込んで殺し殺される戦争を続け、そこから抜け出そうとするオバマ氏が支持された。トランプ氏も同盟国への軍事協力の見直しに言及している。もはや国の中で手いっぱいじゃないか、という民意は奔流となった。
 だが、トランプ氏についてはポピュリズム(大衆迎合主義)の危うい面を指摘すべきだろう。
 むろん、世界に広がるポピュリズムが全て民主主義の敵だと、一刀両断に語るつもりはない。
 しかしトランプ氏を支えたポピュリズムには偏見や憎悪をあおる危うさがある。雇用の拡大を叫ぶ一方で、反移民や反イスラム、多様な生き方を否定するスローガンを持ち出してはばからない。
 この「トランプ現象」と英国の欧州連合(EU)離脱決定は、欧州でオランダ、フランス、ドイツと続く、ことしの選挙に大きな影響を与えそうだ。各国でポピュリズム政党は伸長してきたが、日本もモデルにしてきた民主主義の先進地で何が起きているのか。
 ▽成長なき時代に
 欧州政治史研究者の水島治郎さんは、極右とみなされてきたオーストリアの自由党やフランスの国民戦線などを挙げ、今では民主主義の原理を基本的に受け入れた上で、既成政党を批判している―と分析する。ポピュリストが依拠するのは国民投票や住民投票といった直接民主主義の手法なのだ。リベラルの価値観を掲げ、イスラムは民主主義に反する、と非難する理屈も支持されているという。
 リーマン・ショック以降、ユーロ圏は財政規律堅持へ緊縮財政の策を取り続け、中間層は雇用や生活を圧迫されてきた。成長なき時代の民主主義はリスクと負担も再配分せざるを得ない。そこへ移民や難民の流入、続発するテロという問題が大きくのしかかる。
 欧米の民主主義は今、狭く険しい道を歩もうとしている。ポピュリズムの荒波にも耐え得るのか、それとも変質していくのか。2017年は全世界がそれを直視せざるを得ない年になるはずだ。
 その目線をわが国にも向けてみる。国会では安倍晋三首相が年金制度改革法審議中に「こんな議論を何時間やっても同じですよ」と言ってのけ、蓮舫代表率いる民進党はカジノ法審議で組織の体をなしていないことを露呈した。
 これで万一、日本の安全保障に関わる不測の事態が起きた時に、政党政治が正しく機能するのかどうか、いささか心もとない。
 地方議会では政務活動費の不正が相次いで明るみに出た。東京都では前知事の政治資金の私的流用疑惑が浮上し、新知事の下では五輪や市場移転に伴う都政のブラックボックスぶりが白日の下にさらされた。成長なき時代に既得権の乱用だけが続けば、人々の不安や怒りに火がつくのは当然だ。
 ▽自浄作用働かせ
 それをさらに扇動するポピュリズムが出現すれば危うい。民主主義は三権分立によって互いをチェックする原点に立ち戻り、自浄作用を働かせなければならない。
 昨年、101歳で大往生したジャーナリストむのたけじさんは「強風でも散らぬ葉がある。無風でも散る葉がある」と言い残した。民主主義は自ら鍛えるものである、と受け止めたい。
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琉球新報 2017年1月1日 06:02
<社説>新年を迎えて 「復帰の誓い」今こそ 米軍優先に終止符打とう


 日本復帰から45年となる新年を迎えた。この間、さまざまな困難が立ちはだかった。それを県民の力で乗り越え、時代を切り開いてきたことを誇りたい。
 沖縄は今や名実ともに観光立県となり、自立の道を突き進む。その一方で、米軍基地の過重な負担は今も重くのしかかる。
 過酷な米施政権下にあっても、圧政に抗して主席公選を実現させ、復帰を勝ち取った不屈の精神は今も県民に宿っている。
 安倍政権の強権姿勢にひるむことなく米軍優先に終止符を打ち、復帰時に誓った「平和で明るい豊かな県づくり」にまい進したい。
 国会決議実現せよ
 政府が米軍基地問題で約束した沖縄の過重負担の軽減は、ほとんど成果が見られない。それどころか、基地反対の民意を踏みにじる姿勢がここ数年、顕著になっていることを危惧する。
 その一つの源流は復帰前年1971年の「沖縄国会」にある。沖縄米軍基地縮小に関する決議が採択され、佐藤栄作首相はその直後に発言を求め「基地の整理縮小については速やかに実現できるよう、現在からこの問題に真剣に取り組む方針である」と述べた。
 政治は結果が全てである。結果を伴わない取り組みは、70年余も米軍基地の重圧に苦しむ県民にとっては何ら意味はない。そもそも真剣に取り組んだかも疑わしい。
 「基地縮小」決議は国会でなされたものであり、決議は今も生きている。佐藤首相の「真剣に取り組む方針」も政治の責任として歴代政権が引き継ぐことは当然である。だが安倍政権は「米軍基地機能強化」を「沖縄の負担軽減」と言い換えるなど、不誠実な対応に終始している。
 復帰前は米軍基地と米政府が県民の前に立ちはだかった。安倍政権になってからは、日本政府が県民弾圧に加わったと言わざるを得ない状況がある。
 東村高江集落を取り囲むヘリパッド建設を条件とした米軍北部訓練場の過半返還、宜野湾市の米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古への新基地建設は、いずれも基地機能強化が狙いである。県民の基地負担は確実に増し、国会決議に逆行する。
 国会決議採択と同じ日に沖縄返還協定が承認されている。自民党の福永一臣氏は賛成討論で「沖縄の返還は、全ての点で本土と同じ状態になることは当然である」と述べている。
 国会決議もその趣意が通底していると解すべきである。安倍政権は「基地縮小」決議の重みを踏まえ、直ちに実現すべきだ。
 「未来」自らの手で
 米施政権時代に比べ、沖縄は各分野で大きく発展を遂げてきた。青少年の活躍に勇気付けられた45年と言っていい。
 高校野球では春夏の甲子園で県勢が4度優勝し、その他の競技でも県勢の全国優勝は珍しいことではない。空手、ゴルフなどで県勢は世界でも活躍している。文化活動でも全国一に数々輝いている。国民的な人気を集める県出身の歌手や俳優の活躍も喜ばしい。
 一方で格差が広がり、貧困問題が顕在化している。その一因は沖縄の成長を阻む米軍基地にある。県民総所得に占める基地関連収入は復帰時の15・5%から2013年度は5・1%に減った。基地は沖縄の発展に必要ないのである。
 沖縄の未来を担う子どもたちの健やかな成長を保障するためにも、米軍基地の負担軽減に努めることは社会の責務であることを深く認識したい。
 屋良朝苗主席は復帰前日に発表した談話で「県民自体がまず自主、主体性を確立して、この世紀の大事業と取り組む決意を新たにしなければならない」と県民に呼び掛けた。
 復帰45年は「本土並み」とは程遠い。屋良主席の言葉を胸に刻み、主体性を確立して日米両政府を突き動かし、県民自らの手で「沖縄の未来」を切り開きたい。
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沖縄タイムス 2017年1月1日 10:10
社説[正念場の年に]先人に学び局面打開を


 昨年暮れ、宜野座村城原の泉忠信さん(86)と、東村高江の安次嶺現達さん(58)の自宅を訪ねた。
 オスプレイの飛行訓練にさらされ、日々の暮らしが脅かされている所だ。
 宜野座村城原の泉さんの自宅は、キャンプ・ハンセン内の「ファルコン」と呼ばれるヘリパッドから約380メートルしか離れていない。
 昨年12月には連夜オスプレイが自宅真上を旋回してつり下げ訓練などを行った。
 泉さんはオスプレイが近づくと、2階建ての部屋中の電気をつけ、カーテンを開ける。パイロットに人間が住んでいることを知らせるためだ。墜落の恐怖からである。
 昨年10月からは住居の目印となる「航空標識灯」が設置されたが、自宅付近を避けるようにはみえない。ぜんそくの持病がある泉さんは体調を崩した。
 金属がきしむような不快な爆音に加え、激しい下降気流で粉じんが舞い上がり、燃料のにおいが漂う。窓ガラスが揺れ、孫が恐怖に襲われ、母親に抱きついてきたこともある。
 東村高江の安次嶺さんは妻雪音さん(45)との間に子どもが6人いる。高校生の2人は村内に高校がないため自宅を離れた。うっそうとした木々と小川が流れる自然環境の中で4人の子どもと暮らす。
 子どもたちを伸び伸び育てたいと県内各地を探し回り、たどり着いたのが高江だった。14年前のことだ。子どもたちは小川で水遊びしたり、クワガタムシやカブトムシを捕ったりしてヤンバルの自然を楽しんだ。
 そんな日常が一変したのは2012年に普天間飛行場にオスプレイが配備され、13年と14年に2カ所のヘリパッドが完成してから。自宅から約400メートルしか離れていない。
 自宅上空が飛行コースに当たり、昨年7月には連夜、低空飛行でオスプレイが迫ってきた。自宅が揺れ、子どもたちは眠れない。体調を崩し、学校を休んだ。隣の国頭村に一時避難したが、もうここには住むことができない、と考えるようになった。
 泉さん、安次嶺さんの願いは一つ。「人間らしい普通の暮らしがしたい」。それだけである。
 耐え難い被害が現実に出ているのに、それを放置する政府は、政府として失格だ。両地域について直ちに実効性のある対策を打ち出すよう強く求めたい。
 辺野古沿岸域に大型コンクリートブロックを投下した15年1月以降、音響に敏感なジュゴンが確認されていない。名護市安部のオスプレイ墜落現場付近は、3頭のうち2頭の生息域である。
 政府は、大浦湾におけるジュゴン調査、オスプレイを前提とした北部訓練場の環境影響評価(アセスメント)の再調査を実施すべきである。
 目の前の被害に目をつぶって埋め立てに狂奔してはならない。
■    ■
 世界は第2次世界大戦後に形成された戦後秩序が崩れ、冷戦後の新秩序も形成されないうちに、新たな混迷の時代に入った。
 自由や民主主義をリードしてきた米欧で「分断と対立」が表面化し、「憎悪と不寛容」の政治が頭をもたげてきた。世界各地でテロがやまない。
 米国では「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が20日に就任するが、国内の分裂状況は収まっていない。先行きの見えない不透明感が世界を覆っている。
 沖縄もその影響から完全に免れることはできないであろう。国防長官に元海兵隊大将のマティス氏が起用される見通しである。基地政策で予測不能のトランプ新大統領とのコンビ誕生で基地問題にも少なからぬ影響が出るのは避けられないだろう。
■    ■
 沖縄の先人たちは、国策に翻弄(ほんろう)されながらも人間としての尊厳と「自治・自立」を求め、困難な道を切り開いてきた。
 愚直で、寛容性に富み、ユーモアを好みつつ、抵抗の精神を失わなかった多くの名もない先人たちに学びたい。
 「危機」を「機会」に転換させる知恵と行動力が、いまほど求められているときはない。
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