2017-01-23(Mon)

トランプ新大統領 米政権船出 各紙社説等(2)

国際秩序の維持に努めよ 先の見えない不安な船出 「国益」至上主義では危うい 一国主義 懸念浮き彫り

<各紙社説>
北海道新聞)トランプ米大統領就任 国際秩序の維持に努めよ(1/22)
河北新報)トランプ大統領就任/強いられる「海図なき船出」(1/22)
信濃毎日新聞)トランプ大統領 先の見えない不安な船出(1/22)
京都新聞)トランプ大統領  「国益」至上主義では危うい(1/22)
神戸新聞)トランプ大統領/先の見えない未来への船出(1/22)
中国新聞)トランプ大統領就任 一国主義 懸念浮き彫り(1/22)
西日本新聞)トランプ大統領 世界へ責任果たす米国に(1/22)




以下引用



北海道新聞 2017/01/22 08:50
社説:トランプ大統領就任 国際秩序の維持に努めよ


 世界は予見不能の局面に入るのだろうか。そんな不安がよぎる。
 「米国第一」を掲げるドナルド・トランプ氏(70)が第45代米大統領に就任した。公職経験のない実業家出身の大統領は初めてだ。
 トランプ氏は就任演説で「権力をワシントンから国民の手に取り戻す」と宣言した。
 米国では経済のグローバル化による格差拡大で中間層が没落し、既存のワシントン政治への怒りが強まった。トランプ氏はそれを外国や移民の責任にすりかえ、国民の不満をすくい上げた。
 だが、ことさら「敵」をつくるポピュリズム(大衆迎合主義)的手法は分断を深めるだけだ。
 経済面では環太平洋連携協定(TPP)からの離脱方針を表明した。今後、日米2国間の自由貿易協定(FTA)を求めてくるだろうが、世界経済の不安定化を招かないか。
 「米国第一」が孤立主義に陥れば、覇権を強めるロシアや中国に隙を与えることになる。
 米国は民主主義や自由経済を広げ、その結果、繁栄を享受してきた。それを忘れてはならない。
■国の分断修復を急げ
 トランプ氏は「常に結束を目指さなければならない」と述べ、国民の融和を訴えた。
 にもかかわらず、足元のワシントンでは多くの抗議デモが繰り広げられ、多くの民主党議員が式典を欠席した。支持率40%台の船出は異例の低さだ。
 敵意に満ちた言動で分断を深めたのはトランプ氏自身である。
 メキシコ国境の壁建設など排外主義的な方針は相変わらずだ。選挙向けの発言から、就任後は現実路線に転換するのではとの期待は裏切られた。
 しかも新大統領と閣僚たちとの間で意見の相違も目立つ。こうした超大国の揺らぎが国際社会の不安を増幅させている。
 経済面で懸念されるのは、米国がこれまで主導してきた自由貿易を一転させ、保護貿易に傾斜する姿勢を見せていることだ。
 新政権は早速、12カ国からなるTPPの離脱を表明。カナダ、メキシコとの3カ国による北米自由貿易協定(NAFTA)についても離脱をちらつかせ、再交渉を行う方針を明らかにした。
 2国間協議で有利な条件を引き出したいのだろう。
 トランプ氏は演説で「米製品を買おう。米国人を雇おう」と呼びかけた。
 国際分業制が進む今、これが安い輸入品に高い関税をかけることを意味するなら、回り回って高い製品を買わされるのは米国民だ。
 「壁」をつくる通商政策によって、立ち直りつつある米国の景気が減速すれば、その影響は米国だけにとどまらない。
■外交の基軸が見えぬ
 オバマ前政権は多面的交渉を通じた協調外交を掲げたが、トランプ氏からは損得勘定に基づく「取引」しか見えてこない。
 ロシアに対しては、経済制裁解除の見返りに核軍縮協定を結ぶ可能性に言及している。
 だが制裁は、ロシアがウクライナの主権を踏みにじったことに対し、国際社会が協調して行っている措置だ。トランプ氏の取引がロシアのクリミア半島併合の事実を認めることになりかねない。
 親プーチン政権の姿勢を見せる一方で、欧州の結束を軽視している。英国の欧州連合(EU)離脱を支持し、北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れだ」と批判した。
 米欧間の亀裂はいたずらに国際秩序を混乱させるだけだ。
 中国の習近平政権に対しては、為替・通商政策を改善しなければ米外交の基本原則の「一つの中国」を見直すと揺さぶりをかける。
 まず相手に強く出て譲歩を迫るのがトランプ流なのか。だが利害が複雑に絡み合う外交はビジネスとは違う。北朝鮮核開発や気候変動などで中国の協力は不可欠だ。無用な緊張を生むべきではない。
 中東和平を巡っては親イスラエルが鮮明だ。イスラム過激派のテロ根絶を掲げたが、これでアラブ諸国との連携はできるのか。
■対米追随見直す機会
 前政権が重視したアジア政策は今後どうなるのか。
 安倍晋三首相は日米は「揺るぎない同盟国」と強調するが、トランプ氏は在日米軍経費のさらなる負担を求めてくるかもしれない。
 日本は日米地位協定の枠組みを超えて「思いやり予算」を払っており、これ以上の負担増は非現実的だ。
 安倍政権は、そうした要求があればはね返すとともに、同盟強化の陰で過重負担に耐えてきた沖縄をどうすべきか、辺野古移設問題を含め新政権と再協議すべきだ。
 トランプ政権の誕生を対米追従外交を見つめ直す機会としたい。
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河北新報 2017年01月22日日曜日
社説:トランプ大統領就任/強いられる「海図なき船出


 「ここから、たったいまから、全てが変わる」
 ドナルド・トランプ米新大統領(70)は就任演説でそう歴史的な大転換を訴え、「新たな考え方でわが国を治める」と強調した。新理念とは「ひたすら米国第一」だ。
 予想通りとはいえ、自国の利益を最優先し政権と政策を運営する姿勢を鮮明にした。
 演説は、既成政治との決別宣言にとどまらない。一国中心主義への転換は、国際協調を重んじ自由貿易体制と、冷戦後の国際秩序の構築を自らリードしてきた唯一の超大国による手のひら返しというほかない。
 そうでありながら演説は「内向き」で、「外向き」の理念は語られなかった。しかも秩序や原則より「取引」を優先させるのがトランプ流。これでは、安全保障と貿易を巡る秩序がどう変わるか、予測は難しく、先行きの不透明感と不安は増すばかりだ。
 多数の民主党議員が就任式をボイコットし、抗議デモは拡大している。いくら「結束」を呼び掛けても、自分が過激な発言でより深めた社会の分断は到底、修復し難い。
 新大統領にとっては自ら招いた試練の船出だとしても、国際社会にとっては、強いられた「海図なき船出」だ。
 経済、軍事両面で超大国の新トップの、予測し難い言動に翻弄(ほんろう)されかねない。特に日本を含む同盟国はその出方を見極めつつ、あらゆる事態に備えなければなるまい。
 不法移民を阻む壁建設などとともに、保護主義的な路線は公約通り就任初日に打ち出された。メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉と、日本が承認済みの環太平洋連携協定(TPP)からの離脱である。
 貿易自由化がメキシコを中心に企業の海外移転を加速させ、多くの人が職を失ったとして、自らを支持した低所得白人層ら「忘れ去られた」人々のために、通商政策の刷新で雇用を拡大する狙いだ。
 とはいえ、これでTPPの発効はなくなった。安倍政権にとって成長戦略と通商戦略の練り直しは避けられまい。対日貿易赤字も問題視され、是正に向けた圧力にどう対応するか、練る必要がある。
 同時に就任演説では、安全保障を巡り同盟国に負担増を求める考えも示唆した。同盟国との関係の揺らぎは、ロシアや中国がもたらす地政学上の緊張を高める恐れがある。
 地域の安定のために日米同盟は不可欠で、その強化が必要であることを、日本は慎重に確認することが必要だ。
 もっとも、外交政策の転換にしても雇用創出にしても、トランプ氏は、決別宣言した既存政治を担う議員らの理解を得なければならない。
 加えて権力を監視するマスコミ、不支持が過半数を占める反トランプ世論がある。そうした米国の民主主義が、トランプ氏の言動をどう制約していくのか。注目したい。
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信濃毎日新聞(2017年1月22日)
社説:トランプ大統領 先の見えない不安な船出


 米国社会の分断を深めるだけでなく、国際社会の秩序をかき乱すことにならないか。不安ばかりが募る米新政権の船出である。
 共和党のトランプ氏が第45代大統領に就任した。演説では「今日からはひたすら『米国第一』だ。米国が第一だ。貿易、税金、移民、外交では常に、米国の労働者と家族の利益となるような決定を下す」と訴えた。
 就任初日にオバマ前政権の看板政策である医療保険制度改革の撤廃を指示する大統領令に署名。環太平洋連携協定(TPP)離脱や不法移民を阻止するための壁建設など、選挙戦で訴えてきた主張を基本政策として発表した。
   <異例ずくめの演説>
 歴代の新大統領は選挙戦で生まれた対立の傷を癒やすため、就任時から理想や理念を掲げて国内の融和に腐心した。
 トランプ氏の場合は違った。就任演説では結束の必要性について語ったものの、素っ気なかった。話の力点は既存政治への批判に置かれた。根拠を示さずに過去の政権が産業を衰退させ、安全保障を劣化させたと述べた。
 また、「米国を再び偉大に」などといった威勢のいい言葉が目立った。選挙演説かと思わせる異例な内容に聞こえた。大統領令や基本政策もそうである。なぜ米国民のためになるか、詳しい説明を聞くことができない。
 トランプ氏を強く支持したのは暮らし向きがよくならないことに不満を募らせた白人労働者層と言われる。就任式直前のトランプ氏の好感度は過去40年の大統領の中で最低だ。選挙戦で功を奏した攻撃的なスタイルを保つことで支持層をつなぎ留める意図があったのではないか。今後も対立をあおって人気を取る政策遂行に傾く懸念が拭えない。
 就任式は本来なら党派を超えて祝祭ムードに包まれるものだ。なのに激しい抗議デモが行われ、反トランプ感情の根強さを印象付けた。社会の分断が深刻化する恐れが現実味を増している。
 何よりも懸念されるのは、米国さえよければいい、という独り善がりの姿勢だ。就任演説では「われわれの雇用を取り戻す」とし、保護主義的な経済政策を取る構えを鮮明にした。
 TPP離脱のほか、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に乗り出す方針も明らかにした。交渉がまとまらない場合は離脱も辞さない考えも示している。
   <保護主義への懸念>
 トランプ氏は自由貿易で企業の海外移転が加速し失業者が増えると主張、TPPは「潜在的な災難」としていた。NAFTA再交渉も、米国への輸出に関税がかからないメキシコに米企業の工場が移転し「米国内の雇用を奪っている」ことを理由にしている。
 就任前にもメキシコに工場新設を計画していた米自動車大手などを批判して、計画を取りやめさせた。雇用確保にこだわって企業を無理やりとどまらせても、生産性は向上するのだろうか。逆に競争力を失い、米経済の減速を招くことも考えられる。
 トランプ氏は中国を為替操作国に指定し、高い関税を課す方針も示している。
 歴史を振り返るべきだ。先の大戦は米国の保護主義が報復措置を招き、国家間の対立激化が要因の一つとなった。その教訓から生まれた戦後の自由貿易体制の意義を改めて考えてほしい。
 外交や安全保障政策も相変わらず腰が定まらない。トランプ氏はオバマ政権下で悪化したロシアとの関係改善に乗り出す構えだ。過激派組織「イスラム国」(IS)対策や核軍縮で両国の協力が必要なのは言うまでもない。
 が、新国防長官のマティス氏はロシアを「揺るがぬ脅威」とし、米議会も警戒感を強める。対ロ外交での足並みの乱れは米国の存在感の低下を招く。ウクライナ危機後、ロシアへの圧力を維持してきた先進7カ国の結束が揺らぐようなことになれば、強権的なプーチン氏の思うつぼだろう。
 これはほんの一例である。トランプ氏の外交・安保政策は総じて先が読めない。緊密な関係を保ってきた日本や欧州諸国は振り回される恐れが高い。
 かねて主張してきた国境への壁建設も問題だ。トランプ氏は一方的に建設費用をメキシコに負担させると主張し、メキシコはこれを明確に否定している。
   <手腕を厳しく問う>
 そもそも国家間の合意なくしてそのようなことができるのか。トランプ氏の排外主義的な言動が他者への憎悪や不寛容さを広げることにならないか心配だ。米国が長年培ってきた人権や自由の価値に深刻な打撃を与え、内外で摩擦を生むことになりかねない。
 大衆迎合主義や排外主義、保護主義…。トランプ氏の政治姿勢は危ういものばかりだ。巨大な権力を適切に使い、超大国を率いていく手腕があるのか。「米国第一」をどう実行に移すか、注視していく必要がある。
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[京都新聞 2017年01月22日掲載]
社説:トランプ大統領  「国益」至上主義では危うい


 米国の深刻な分断を見せつける異様な光景だった。全米から首都に集まった数十万人規模の反対デモの怒声が上がるなか、ドナルド・トランプ米大統領が誕生した。
 祝福や期待より、不安と反発が先立つ船出である。40%という低支持率がそれを表している。
 歴史の時計の針が逆回転を始めた-。就任演説を聴いてそんな印象を受けた。まるで19世紀の政治家の言葉のようだったからだ。
 約16分間の演説に平和、自由、民主主義、平等、正義、人権、多様性といった現代的な言葉は一度もなかった。繰り返されたのは国境、貿易、雇用、産業、富、国益、誇り、忠誠心、強さ、夢、偉大…など古めかしい言葉だった。
 「権力をワシントンから国民の手に返す」「ここから、たった今から、全てが変わる」。革命家のような口ぶりで宣言し「雇用を、国境を、富を、夢を取り戻す」と打ち上げた。
 さらに「国益を最優先する権利が全ての国にある」と、看板に掲げる「米国が第一」のビジョンを正当化した。利己に走り、世界の平和と安定に対する超大国としての責任を放棄した米国が「再び偉大な国に」なれるのだろうか。
 「オバマ否定」の羅列
 トランプ新政権の政策は、オバマ前政権が力を入れてきた施策に対する「否定」の羅列である。
 対外政策は、環太平洋連携協定(TPP)の離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、不法移民を阻止する国境の壁の建設など、保護貿易主義と排外主義が色濃い。人、カネ、モノの自由な移動を是とする自由貿易路線から世界一の経済大国が急転換すれば、関係国の企業や労働者に大きな苦痛と負担を強いる。そのことを意識しないのだろうか。
 オバマ氏が提唱した「核なき世界」の理想も消えた。米ロ関係を改善し、ウクライナ問題で科した経済制裁の解除と引き換えに核軍縮を持ちかけるというが、現実的な「取引」とは思えない。
 内政面でも、国民皆保険を目指した医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃を決めたが、法外に高い医療費を放置したままでは、低所得者は医療を受けられなくなる。環境規制を緩和するというが、国立公園での石炭や原油の掘削を認めれば、取り返しがつかない自然破壊を招く恐れがある。
 欧州への波及懸念
 心配なことは、閉塞(へいそく)感を背景に「米国が第一」のような利己的ナショナリズムの政治が世界に拡散していくことだ。「国益」最優先となれば、貧困対策や人道支援、環境対策などは後退し、協調より利権争いが幅を利かす帝国主義時代さながらの殺伐とした国際社会に逆戻りしかねない。
 今年はオランダ国会(3月)、フランス国民議会(6月)、ドイツ連邦議会(秋ごろ)など重要な選挙が欧州で相次ぐ。注目は4月のフランス大統領選だ。移民排斥を訴える有力候補の極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は「自分が米国人ならトランプ氏に投票する」と支持を表明している。
 昨年はオーストリアで元ナチス党員が設立し、移民排斥や「自虐史観」是正を訴える党の大統領候補が46%を得票した。経済の停滞や移民に悩むイタリアでは国民投票で首相が辞任に追い込まれた。
 こうした風潮を見ると20世紀前半の暗い時代が思い浮かぶ。思想家の柄谷行人氏は著書で「ナチズムが人を魅惑したのは、将来に向かって現在を耐えるのではなく、『今ここ』で現在の諸矛盾を解消してしまうような幻想を与えたから」と分析する。トランプ氏の演説にも通じるものがあろう。
 メディア不信深く
 大統領選ではほとんどの米メディアがトランプ氏不支持を表明したが、結果は逆になった。こうした状況も当時と重なる。
 ヒトラー時代を体験した経営学の大家ピーター・ドラッカーによると、新聞はすべてヒトラーを軽侮する記事を連日満載し、ラジオ局は反ナチス番組を放送した。しかし、メディアが厳しく批判し、嘲笑すればするほど、人心をナチスの側に追いやった。
 先日の会見でトランプ氏は、自身に批判的な記者の質問を拒むなど民主主義と報道・表現の自由を尊重する米国ではありえない態度をとったが、それに喝采を送る支持者も多かった。驚きであり、残念でもある。新聞を含むメディアの報道のあり方が問われている。
 日本にとってトランプ政権は扱いにくい同盟相手となった。安倍政権が経済的な中国包囲網として期待をかけたTPPの発効は絶望的である。「世界の警察官」をやめると宣言したことで、日米安保の実効性にも影が差す。
 再び冷却化している日韓関係についても、2015年末の慰安婦合意のときのように米国の積極的な仲介は望めまい。米国頼みではなく、自らの外交努力で関係を切り開いていく姿勢が求められる。
 トランプ政権の具体的な政策は2月にかけて発表される一般教書と予算教書で明らかになる。上下両院を支配する与党共和党はトランプ氏の過激な政策を必ずしも支持していない。政策がより現実的で穏当になるよう期待をつなぐ。
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神戸新聞 2017/01/22
社説:トランプ大統領/先の見えない未来への船出


 支持と反対の声が激しく交錯する中で、トランプ氏が第45代米大統領に就任した。
 実業家出身で公職や軍務の経験はない。70歳の年齢は1期目としては歴代最高齢。一時は「泡沫(ほうまつ)候補」扱いされながら、熱烈な支持を得て国のトップに上り詰めた。異例ずくめの新大統領の誕生である。
 選挙中から過激な言動を重ねてきただけに、就任演説の内容を世界中が注視した。そのトランプ氏が力を込めたのは、自国利益を優先する「米国第一」の方針だ。
 白人労働者などの支持層に向けた雇用創出を重視する一方、既成政治への批判を語る。「全ての米国人に対する忠誠」の言葉と裏腹に、自身のカラーを改めて鮮明にした。
 これから何が待ち受けるのか、先の見えない緊張の船出といえるだろう。新政権の出方を慎重に見極めることが必要だ。
       ◇
 「たった今から全てが変わる」。そう胸を張ったトランプ氏は就任後、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明した。公約通りオバマ前政権の通商政策を白紙に戻すことが最初の大きな仕事となる。
 TPPは既に関係12カ国が協定文に署名している。米国とともに合意への努力を重ねた日本は、政策の見直しを迫られることになる。
■全ては「米国第一」
 昨年の大統領選後、安倍晋三首相は各国首脳に先駆けてトランプ氏と会談した。TPPを「国家百年の計」とする首相は粘り強く理解を求める考えだったとされるが、トランプ氏にはね返される形となった。
 日本だけではない。隣国メキシコも、不法移民阻止を掲げるトランプ氏が国境に壁を建設する方針を打ち出し、強硬策のあおりを食う。
 批判の矛先はトヨタ自動車などメキシコ国内での生産を計画する大手企業にも向けられ、トランプ氏に名指しされた企業の多くが計画の撤回や見直しに追い込まれた。
 全ては「米国が第一」。これが政権の基本方針であることを、トランプ氏は就任演説で明言した。脳裏に描くのは、米国内への製造拠点の回帰と立地促進だろう。今後、新政権が他国や海外企業への圧力を強めることは間違いない。
 安倍首相は「首脳同士の信頼関係の構築」を強調する。だが、ビジネスの流儀で「ディール(取引)」を持ち掛けるトランプ政権との交渉には、外交儀礼や前例はさほど通用しないと考えた方がよい。
 米国を最大の輸出先とする日本は大きな影響を受ける恐れがある。安全保障上の同盟国でも、「米国第一」に反すると判断すれば厳しく対応する可能性があることを、念頭に置いておかねばならない。
 「さびついた工場群が墓石のように国内の至る所に散らばっている」。トランプ氏は演説で自国の地域経済が疲弊する状況に言及した。「政治家が潤う一方で、職は失われ、工場は閉鎖された」とも述べた。
 米国では、かつての製造業地帯などの衰退が目立つ。トランプ氏を押し上げた力の一つは、そうした地域に住む「忘れられた人々」の怒りだったとされる。多くは繁栄の時代を知る中高年の白人労働者だ。
■既成政治への批判
 所得の低迷や失業などに直面する地域の窮状に、政治はどこまできちんと向き合ってきたか。トランプ大統領の誕生は既存の政党や政治家への反省を迫っている側面がある。  まず国内の雇用を創出する。その際にトランプ氏が重視するのは衰退が著しい地域経済の回復だろう。保護主義は国際関係の緊張を招く。それが歴史の教訓だが、そうした指摘には簡単に耳を貸しそうにない。
 過激な言動や強引な政策を批判するだけでは、政権の姿勢を変えることはできないだろう。
 米国民の多くは「子どもの世代の暮らし向きは自分たちより悪化する」と悲観的に考えている。未来を明るくしてほしいとの願いがトランプ氏に託されたといえる。
 ただ、米大統領も万能ではない。対外政策の見直しには他国との交渉が要る。医療保険制度改革(オバマケア)を撤廃すれば、無保険者は3200万人に膨れ上がる。
 一方で、政権発足前の支持率は40%台と歴代政権で最低レベルにとどまる。選挙には勝ったが、大統領選の得票総数もクリントン氏の方が多かった。決して盤石の政権基盤ではないことを肝に銘じるべきである。結果を出せなければ、熱烈な支持は深刻な失望と政治不信に変わることを認識しなければならない。
 これから現実の政権運営が始まる。何ができて、何ができないかを、大統領は国民に率直に説明する責務がある。対話を重ねて異なる意見にも耳を傾ける。民主政治の基本をおろそかにしては、「米国第一」も単なる掛け声に終わりかねない。
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中国新聞 2017/1/22
社説:トランプ大統領就任 一国主義 懸念浮き彫り


 ここまで期待より、不安を広げる米大統領が過去にいただろうか。ドナルド・トランプ氏が第45代のトップに就いた。
 早速、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱や、メキシコ国境に壁を建設するなどの政策を発表している。新政権発足とともに、国民に「転換」を印象付ける狙いなのだろう。
 ▽保護政策を前面
 これまでの保護主義、排外主義的な言動を本当に政策に反映することになれば国際社会の混乱は避けられまい。世界一の大国を本当に率いることができるのか。新大統領は多難な船出と言わざるを得ない。
 就任演説のポイントは「米国第一主義」がむき出しになったことだ。「雇用を奪う外国から国境を守らなければならない」と、保護主義的な政策を宣言した。「バイ・アメリカン(米国製品を購入せよ)」「ハイヤー・アメリカン(米国人を雇用せよ)」という原則を掲げた。
 これまで米国の強みは移民を受け入れ、産業を活性化することで国を発展させることだったはずだ。その姿勢を変え、特定の貿易相手国を敵対視するような言動は看過できない。これでは積み上げられてきた国際秩序は大きく揺らぎかねない。
 さらに「政府から恩恵を享受するのは一握りの人々」などと既存政治を強く批判した。社会の分断や敵意をあえてあおる姿のように映る。現に就任式の日には首都ワシントンで抗議デモが相次ぎ、警察が催涙ガスで応じる事態に発展した。
 ▽詰められぬ政策
 こうした状況を重く受け止め、社会の軋轢(あつれき)の修復に努める姿勢を見せる必要がある。
 演説だけではない。その後に発表した政権の基本政策も波紋を投げ掛けたといえよう。
 TPPからの離脱のほか、カナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉に臨むと表明した。2013年に定めた、温暖化防止のために火力発電所を規制するなどした行動計画の廃止を決めた。いずれもオバマ前大統領が進めた政策の「逆張り」といえる。
 ただ新政権の政策が詰められているとは言い難い。例えば、最初に大統領令に署名した医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃である。トランプ氏は「速やかに代替案を出す」としていたが、いまだ具体策を示さない。このままでは2千万人以上が無保険に戻る懸念も残る。
 前政権の仕事を否定することばかりに躍起になるなら、無責任とのそしりは拭えまい。
 理念より実利、国際協調より国益第一―。トランプ氏のビジョンを表すと、そうなるのかもしれない。損か得かで判断するビジネスに近い感覚に思える。
 しかし世界の貿易、経済、外交のリーダーとして国際秩序を導く姿勢がなければ世界は一体どうなるだろう。
 とりわけ関心を集めているのがもう一つの超大国ロシアとの関係だ。プーチン大統領との関係改善に積極的なあまり、クリミア半島の併合に象徴される力による領土拡張を容認する可能性すらある。
 さらにいえば中国とも「一つの中国」原則の見直しを示唆するなど、対立をあえてあおっている節がある。自国の利益につなげるため、「取引外交」を進めれば、これまでの国際ルールや秩序を乱すことになろう。
 ▽オバマ路線継げ
 私たち被爆地が最も心配になるのが、そのトランプ氏が「核のボタン」を握ることだ。核兵器なき世界を模索したオバマ政権とは対極になりかねない。
 昨年末に「核戦力の大幅な強化を」と主張した一方、ことしに入りロシアとウクライナ情勢に絡めて核軍縮交渉に前向きな姿勢を示すなど、場当たり的な対応が目立つ。核兵器を外交の取引材料の一つととらえているのなら言語道断である。冷戦終結後、歴代大統領が核軍縮へ努力を積み重ねてきたことを理解していないとしか思えない。
 トランプ政権の一国主義が、かえって軍事的な緊張と軍拡につながることを危惧する。少なくとも核政策でオバマ氏の理念を継承することを求めたい。
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西日本新聞 2017年01月22日 10時37分
社説:トランプ大統領 世界へ責任果たす米国に


 ドナルド・トランプ氏が米国の第45代大統領に就任した。
 トランプ新大統領は、米国を活性化させ、世界に新たな秩序を築くのか。それとも、混乱を引き起こし、国際情勢の不安定化を招くのか。トランプ氏の言動と打ち出した政策を見る限り、期待より不安の方がはるかに大きい。
 日本を含む国際社会は、従来の常識が通用しない「不確実な世界」に備えなければならない。
 ●国際秩序へ薄い関心
 「今日からはひたすら米国第一だ。全ての決定は米国の労働者と家族の利益となるようにする」
 トランプ新大統領は就任演説で、選挙スローガンだった「米国第一主義」を改めて強調した。オバマ前政権の国際協調から、米国が単独で自国の利益を追求するトランプ路線への転換である。
 またトランプ氏は就任初日に、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱方針を正式表明した。自由貿易の推進役だった米国が、保護主義に大きく傾いたといえる。
 一方で、就任演説からは「どのような世界を目指すか」という理念がほとんど読み取れない。国際秩序構築に対するトランプ氏の関心の薄さは際立っている。
 大戦後の世界で米国は常に民主主義、人権、法の支配といった「自由主義社会の価値観」の守護者であり、その普遍的な価値を前面に掲げて世界をリードしてきた。
 損得を基準にした取引を好むトランプ氏は、こうした価値観や理念を軽視する傾向が強い。国際紛争や人道危機が発生し、中国やロシアなどの大国が周辺国を圧迫しても、米国の利益さえ守られれば、われ関せず-。そんな米国になっていくのだろうか。
 トランプ氏は「米国を再び偉大な国にする」と語るが、米国はその富と力にふさわしい責任を果たしてきたからこそ「偉大」だったのだ。米国が担うべき「世界への責任」を忘れてはならない。
 ●国民が融和してこそ
 トランプ氏の就任式が行われた20日、同じ首都ワシントンでは就任に抗議するデモ隊が警官隊と激しく衝突し、200人以上が拘束される騒ぎとなった。今回の大統領選で米国内に生じた分断の深刻さを印象付けた。
 歴代の大統領はまず、選挙戦の党派対立を癒やし、国民の融和に努力する姿勢を見せたものだ。しかし、トランプ氏は就任演説で「常に結束を目指さなければならない。米国が団結すれば誰も止めることはできない」と述べたものの、自分に反対する人々に呼び掛けたり、自ら歩み寄ったりする言葉を発しなかった。
 トランプ氏は、国民の分断を招いた原因が、他ならぬ自分の差別的、排他的な言動にあることを認識しているのだろうか。自分への批判に過敏に反応し、ツイッターで口汚く攻撃する行動パターンには、指導者が備えるべき品格や寛容の精神がうかがえない。
 本当に結束が重要だと考えているのなら、トランプ氏自身の自己改革が必要だ。相手の話に耳を傾け、対話によって納得させる包容力を身につけてほしい。分断と排除は米国の一体感と国力を減退させることに気付くべきである。
 ●新たな外交の戦略を
 トランプ大統領の就任は国際社会を大きく揺さぶっている。トランプ氏がツイッターで発信する断片的な外交方針に、日本など関係国は振り回されている。
 安倍晋三首相は昨年11月、いち早く就任前のトランプ氏と面会した。そこでTPPの重要性を説いたとみられるが、トランプ氏は就任初日にあっさりTPPからの離脱方針を表明した。安倍政権は通商政策の再構築を迫られる。
 就任演説でトランプ氏は「他国の国境をわれわれが守ってきた」と同盟国への不満を示した。今後、同盟国に防衛費や駐留米軍経費の負担増を求めるとみられる。
 安倍首相は通常国会の施政方針演説で「(トランプ政権下でも)日米同盟が日本外交の基軸なのは不変の原則」と語った。しかし同盟維持に腐心するあまり、米国の要求に全て唯々諾々と従うようでは困る。不合理な要求には決然として「ノー」と言う気概がほしい。
 トランプ政権がもたらす国際情勢の不透明化は「対米連携」が自明だった従来の日本外交に新たな戦略を求めることになるだろう。
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