2017-06-17(Sat)

「共謀罪」法強行成立  口つぐむ国民にはならぬ

権力の病弊 「共謀罪」市民が監視を   「私」への侵入を恐れる  憲政史上汚点残す暴挙 

<各紙社説・主張・論説>
朝日新聞)権力の病弊 「共謀罪」市民が監視を (6/16)
毎日新聞)「共謀罪」法の成立 一層募った乱用への懸念 (6/16)
日本経済新聞)あまりに強引で説明不足ではないか  (6/16)
東京新聞)「共謀罪」法が成立 「私」への侵入を恐れる (6/16)
しんぶん赤旗)「共謀罪」強行成立  危険な違憲立法廃止の声広げ (6/16)

北海道新聞)口つぐむ国民にはならぬ (6/16)
北海道新聞)「共謀罪」法成立 国会の本分捨てたのか (6/16)
河北新報)「共謀罪」法が成立/「1強」の数の横暴極まる (6/16)
信濃毎日新聞)共謀罪法成立 民主主義の土台が崩れる (6/16)

京都新聞)「共謀罪」法成立  行き過ぎた運用に歯止めを (6/16)
神戸新聞)「共謀罪」成立/民主主義が脅かされている (6/16)
中国新聞)「共謀罪」法成立 議論封じる暴挙許せぬ (6/16)
西日本新聞)「共謀罪」法成立 憲政史上に汚点残す暴挙 (6/16)




以下引用



朝日新聞 2017年6月16日05時00分
(社説)権力の病弊 「共謀罪」市民が監視を


 「共謀罪」法が成立した。
 委員会での審議・採決を飛ばして本会議でいきなり決着させるという、国会の歴史に重大な汚点を残しての制定である。
 捜査や刑事裁判にかかわる法案はしばしば深刻な対立を引きおこす。「治安の維持、安全の確保」という要請と、「市民の自由や権利、プライバシーの擁護」という要請とが、真っ向から衝突するからだ。
 二つの価値をどう両立させ、バランスをどこに求めるか。
 その際大切なのは、見解の異なる人の話も聞き、事実に即して意見を交わし、合意形成をめざす姿勢だ。どの法律もそうだが、とりわけ刑事立法の場合、独善と強権からは多くの理解を得られるものは生まれない。
 その観点からふり返った時、共謀罪法案で見せた政府の姿勢はあまりにも問題が多かった。277もの犯罪について、実行されなくても計画段階から処罰できるようにするという、刑事法の原則の転換につながる法案であるにもかかわらずだ。
 マフィアなどによる金銭目的の国際犯罪の防止をめざす条約に加わるための立法なのに、政府はテロ対策に必要だと訴え、首相は「この法案がなければ五輪は開けない」とまで述べた。まやかしを指摘されても態度を変えることはなかった。
 処罰対象になるのは「組織的犯罪集団」に限られると言っていたのに、最終盤になって「周辺の者」も加わった。条約加盟国の法整備状況について調査を求められても、外務省は詳しい説明を拒み、警察庁は市民活動の監視は「正当な業務」と開き直った。これに金田法相のお粗末な答弁が重なった。
 「独善と強権」を後押ししたのが自民、公明の与党だ。
 政治家同士の議論を活発にしようという国会の合意を踏みにじり、官僚を政府参考人として委員会に出席させることを数の力で決めた。審議の中身を論じずに時間だけを数え、最後に仕掛けたのが本会議での直接採決という禁じ手だった。国民は最後まで置き去りにされた。
 権力の乱用が懸念される共謀罪法案が、むき出しの権力の行使によって成立したことは、この国に大きな傷を残した。
 きょうからただちに息苦しい毎日に転換するわけではない。だが、謙抑を欠き、「何でもあり」の政権が産み落としたこの法律は、市民の自由と権利を蚕食する危険をはらむ。
 日本を監視社会にしない。そのためには、市民の側が法の運用をしっかり監視し、異議を唱え続けなければならない。
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毎日新聞2017年6月16日 東京朝刊
社説:「共謀罪」法の成立 一層募った乱用への懸念


 テロなどを防ぐ治安上の必要性を認めるにしても、こんな乱暴な手法で成立させた政府を容易に信用することはできない。
 「共謀罪」の構成要件を改め、テロ等準備罪を新設する改正組織犯罪処罰法がきのう成立した。与党側は、参院法務委員会の採決を省略するという異例の方法をとった。
 警察などの捜査機関が権限を乱用し、国民への監視を強めるのではないか。そこがこの法律の最大の懸念材料だった。
 しかし、政府・与党は懸念解消どころか増幅させる振る舞いに終始した。法律への不安は一層深まった。
 組織犯罪の封じ込めは必要だ。ただし、こうした活動はあくまで広範な国民の同意の下でなされなければならない。そのため、私たちは、大幅な対象犯罪の絞り込みと、捜査権乱用の歯止め策を求めてきた。
 組織的犯罪集団が法の適用対象だ。それでも、一般人が捜査対象になるかどうかが、法案審議では一貫して焦点になってきた。
 参院段階では、政府から「周辺者」も適用対象との説明が新たにあった。これでは、一般人とは、警察の捜査対象から外れた人に過ぎなくなる。重大な疑問として残った。
 法は来月にも施行される見通しだ。法務省刑事局長は国会答弁で「犯罪の嫌疑が生じていないのに尾行や張り込みをすることは許されない」と述べた。国民の信頼を損ねない法の運用を重ねて警察に求める。
 仮に強制捜査が行われる場合、令状の審査に当たる裁判所の責任が重いことは言うまでもない。
 捜査機関が捜査を名目に行き過ぎた監視に走る可能性があることは、これまでの例をみても明らかだ。
 2010年、警視庁の国際テロ捜査に関する内部文書がインターネット上に漏えいした事件があった。そこには、テロとは無縁とみられる在日イスラム教徒らの個人情報が多数含まれていた。「共謀罪」法によって、こうした監視が今後、社会に網の目のように張り巡らされていく危険性は否定できない。
 政治的な活動を含めて国民の行動が警察権力によって脅かされてはならない。監視しようとする側をどう監視するか。国民の側の心構えも必要になってくる。
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日本経済新聞 2017/6/16付
社説:あまりに強引で説明不足ではないか


 最後は多数決で決めるのが国会のルールには違いない。しかし与党の都合で法案審議の手続きを一部省略し、早期成立にこだわるような手法はあまりに強引すぎる。学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部の新設問題では、文部科学省が14の内部文書の存在を認めた。政府は政策判断の経緯を改めて詳しく説明する責任がある。
 犯罪を計画段階で処罰する「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法は、与野党の徹夜の攻防の末、15日朝に参院本会議で可決、成立した。
 自民党は14日に参院法務委員会での採決を省略する「中間報告」という手続きによって参院本会議で採決したいと提案。同法の廃案を求める民進、共産両党などは衆院に内閣不信任決議案を提出して抵抗した。
 過去にも委員会採決を経ずに衆参の本会議で採決をした例はある。だがそれは野党が委員長ポストを握っていたり、各党が個々の議員に本会議採決での賛否を委ねたりするケースだった。与党が議事運営の主導権を確保していながら、審議の手続きを省略したのはどう考えてもおかしい。
 文科省は15日、国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設をめぐり、「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だ」などと書かれた14の文書が省内に存在していたとの再調査結果を発表した。
 国家戦略特区は新規参入を阻む「岩盤規制」に政治主導で風穴をあける仕組みだ。官邸側や内閣府が52年ぶりの獣医学部の新設を実現するため、慎重姿勢を崩さない文科省を押し切ったこと自体に問題があるわけではない。ただ加計学園は安倍晋三首相の友人が理事長を務めており、公正な行政判断がゆがめられた可能性があると野党は厳しく追及している。
 菅義偉官房長官は官邸側の圧力をうかがわせる内部文書の存在が指摘されると「怪文書みたいな文書」と言い切り、松野博一文科相は短期の調査だけで「該当する文書は確認できなかった」と発表した。政府にやましい点がないのなら自ら徹底調査し、事実を公表するという姿勢が欠けていた。
 参院予算委員会は16日に首相も出席して集中審議を開き、国会は18日の会期末を待たずに事実上閉幕する。政府は今後も閉会中審査などに応じ、様々な疑問に丁寧に答えていく必要がある。
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東京新聞 2017年6月16日
【社説】「共謀罪」法が成立 「私」への侵入を恐れる


 「共謀罪」が与党の数の力で成立した。日本の刑事法の原則が覆る。まるで人の心の中を取り締まるようだ。「私」の領域への「公」の侵入を恐れる。
 心の中で犯罪を考える-。これは倫理的にはよくない。不道徳である。でも何を考えても自由である。大金を盗んでやりたい。殴ってやりたい-。
 もちろん空想の世界で殺人犯であろうと大泥棒であろうと、罪に問われることはありえない。それは誰がどんな空想をしているか、わからないから。空想を他人に話しても、犯罪行為が存在しないから処罰するのは不可能である。
◆犯罪の「行為」がないと
 心の中で犯罪を考えただけでは処罰されないのは、根本的な人権である「思想・良心の自由」からもいえる。何といっても行為が必要であり、そこには罪を犯す意思が潜んでいなければならない。刑法三八条にはこう定めている。
 <罪を犯す意思がない行為は、罰しない>
 そして、刑罰法規では犯罪となる内容や、その刑罰も明示しておかねばならない。刑事法のルールである。では、どんな「行為」まで含むのであろうか。
 例えばこんなケースがある。暴力団の組長が「目配せ」をした。組員はそれが「拳銃を持て」というサインだとわかった。同じ目の動きでも「まばたき」はたんなる生理現象にすぎないが、「目配せ」は「拳銃を持て」という意思の伝達行為である。
 目の動きが「行為」にあたるわけだ。実際にあった事件で最高裁でも有罪になっている。「黙示の共謀」とも呼ばれている。ただ、この場合は拳銃所持という「既遂」の犯罪行為である。
 そもそも日本では「既遂」が基本で「未遂」は例外。犯罪の着手前にあたる「予備」はさらに例外になる。もっと前段階の「共謀」は例外中の例外である。
◆市民活動が萎縮する
 だから「共謀罪」は刑事法の原則を変えるのだ。
 「共謀(計画)」と「準備行為」で逮捕できるということは、何の事件も起きていないという意味である。つまり「既遂」にあたる行為がないのだ。今までの事件のイメージはまるで変わる。
 金田勝年法相は「保安林でキノコを採ったらテロ組織の資金に想定される」との趣旨を述べた。キノコ採りは盗みと同時に共謀罪の準備行為となりうる。こんな共謀罪の対象犯罪は実に二百七十七もある。全国の警察が共謀罪を武器にして誰かを、どの団体かをマークして捜査をし始めると、果たしてブレーキは利くのだろうか。暴走し始めないだろうか。
 身に覚えのないことで警察に呼ばれたり、家宅捜索を受けたり、事情聴取を受けたり…。そのような不審な出来事が起きはしないだろうか。冤罪(えんざい)が起きはしないだろうか。そんな社会になってしまわないか。それを危ぶむ。何しろ犯罪の実行行為がないのだから…。
 準備行為の判断基準については、金田法相はこうも述べた。
 「花見であればビールや弁当を持っているのに対し、(犯行場所の)下見であれば地図や双眼鏡、メモ帳などを持っているという外形的事情がありうる」
 スマートフォンの機能には地図もカメラのズームもメモ帳もある。つまりは取り調べで「内心の自由」に踏み込むしかないのだ。警察の恣意(しい)的判断がいくらでも入り込むということだ。
 だから、反政府活動も判断次第でテロの準備行為とみなされる余地が出てくる。市民活動の萎縮を招くだろう。こんな法律を強引に成立させたのだ。廃止を求めるが、乱用をチェックするために運用状況を政府・警察は逐一、国民に報告すべきである。
 ロシアに亡命中の米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン氏が共同通信と会見し、米国家安全保障局(NSA)が極秘の情報監視システムを日本側に供与していたと証言した。これは日本政府が個人のメールや通話などの大量監視を可能にする状態にあることを指摘するものだ。「共謀罪」についても「個人情報の大規模収集を公認することになる」と警鐘を鳴らした。「日本にこれまで存在していなかった監視文化が日常のものになる」とも。
 大量監視の始まりなら、憲法の保障する通信の秘密の壁は打ち破られ、「私」の領域に「公」が侵入してくることを意味する。
◆異変は気づかぬうちに?
 そうなると、変化が起きる。プライバシーを握られた「私」は、「公」の支配を受ける関係になるのである。監視社会とは国家による国民支配の方法なのだ。おそらく国民には日常生活に異変は感じられないかもしれない。だが気付かぬうちに、個人の自由は着実に侵食されていく恐れはある。
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しんぶん赤旗 2017年6月16日(金)
主張:「共謀罪」強行成立  危険な違憲立法廃止の声広げ


 「内心」を処罰対象にする「共謀罪」法は、夜を徹した与野党の攻防を経て15日朝の参院本会議で自民・公明の与党と日本維新の会の賛成多数で可決・成立しました。国会前に駆けつけた多数の市民の抗議や国民世論を無視し、「数の力」で違憲立法を強行した安倍晋三政権の暴挙は断じて許されません。国会審議で次々とあらわになった「共謀罪」がもたらす人権侵害、「監視社会化」への危険をそのままにすることはできません。「共謀罪」法廃止をはじめ、安倍政権による「戦争する国」への暴走を阻止するたたかいを広げることがいっそう急務となっています。
暴挙に次ぐ暴挙に怒り
 犯罪の具体的行為があって初めて処罰されるという日本の刑法の大原則をねじ曲げ、思想・良心の自由をはじめとする基本的人権を侵害する「共謀罪」法は紛れもない違憲立法です。それをごまかすため安倍政権は「テロ対策」とか「一般人は対象外」と主張し国民を欺こうとしましたが、国会審議での野党の追及に答弁は迷走を続け、審議をすればするほど、政府の説明は破綻していきました。そのことは審議がすすむにつれて世論調査で疑問や懸念が増えてきたことからも明らかです。
 参院法務委員会審議を事実上封じ、委員会採決を抜きにした「中間報告」という国会ルール無視の“禁じ手”を行使したことは、安倍政権が追い詰められた結果です。その暴挙が国民の新たな怒りを呼び、「共謀罪」法の深刻な危険と矛盾を浮き彫りにしています。
 国民の異論に何ら答えることなく、「数の力」による強行を繰り返したやり方に一片の道理もありません。憲法違反の「共謀罪」法廃止とともに警察の不当捜査や人権侵害、監視社会づくりを許さないたたかいが必要となっています。
 安倍政権が2012年末の第2次政権以降、毎年のように国民の声に逆らって、日本を「戦争する国」にするための違憲立法などを次々と強行していることは、異常というほかありません。
 国民の目と耳と口をふさぐことを狙った言論規制の秘密保護法の制定(13年)、自衛隊が海外で武力行使をすることを可能にした安保法制=戦争法の強行(15年)、そして今回の「内心」を処罰する「共謀罪」法の強行―。加えて5月の憲法記念日に安倍首相は自衛隊の存在を憲法に明記する改憲を20年に施行することを明言するなど、本格的に9条破壊に乗り出す策動を強めています。こんな暴走を絶対に認めるわけにはいきません。
 秘密保護法、戦争法、「共謀罪」法の違憲立法をそろって廃止に追い込む新たなたたかいを開始し、安倍首相の改憲の野望を阻むことと合わせ、立憲主義、民主主義、平和主義を日本の政治に取り戻すことが急がれます。
安倍暴走政治に審判下し
 「共謀罪」法を強行する一方で、行政をゆがめ国政を私物化した「加計」「森友」疑惑の解明に背を向ける安倍政権への国民の怒りは高まっています。国民の声に逆らう安倍政権に日本の政治のかじ取りを続ける資格はありません。
 安倍政権打倒へ向け、市民と野党がさらに力を合わせることが求められます。目前に迫った23日告示の東京都議選での、安倍政権に退場を迫る首都の有権者の審判がいよいよ重要となっています。
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北海道新聞  2017/06/16 09:00
社説:口つぐむ国民にはならぬ


 安倍晋三首相がかつて繰り返した「戦後レジーム(体制)からの脱却」とは、詰まるところ「戦前回帰」だった。そうした思いが募るばかりだ。
 4年半前の政権復帰以来の道のりをあらためてたどってみたい。
 まず、特定秘密保護法で国民の目と耳に覆いを掛けた。情報を遮断した上で整備したのが、違憲の疑いが強い安全保障法制である。
 そして、今度は、口封じの「共謀罪」法だ。
 正式には、「共謀罪」の構成要件を変えて「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法と言うべきなのかもしれない。
 しかし、その内実は国民の内心の自由を脅かし、発言や行動を萎縮させる法律にほかならない。
 だからこそ、私たちは廃案を訴え続けてきた。ところが与党は、疑問点を解消しないばかりか、委員会採決という手続きをすっ飛ばす「中間報告」という奇手まで繰り出し、押し切った。
 極めて異常である。
 憲法の理念に沿わない法律は廃止するべきだ。
 同時に国民は、法の運用に監視の目を光らせ、言論統制につながる動きにはしっかりと「ノー」を突きつけなければならない。
 法案審議を通じて目立ったのは、金田勝年法相の不安定な答弁ぶりである。もちろん、資質もあろうが、法自体が不安定だから、答弁も揺れたのではないか。
 たとえば、一般人が捜査対象になるか否かの問題だ。
 特定秘密保護法や安保法制をめぐっては、多くの市民団体が反対の声を上げた。危機感を持った若者たちの自発的な行動は、大きなうねりとなった。
 「共謀罪」によって、そうした動きにブレーキをかける。そんな思惑すら透けて見える。
 事実、金田氏は「環境保護や人権保護を隠れみのとし、実態は重大犯罪を実行する団体と認められる場合は処罰される」と述べた。
 「隠れみの」かどうかを判断するのは捜査機関だ。一般人が捜査対象にはならないとは言えまい。
 政府は裁判所があるから恣意(しい)的な適用はできないとも強調するが、実際は捜査機関が請求した逮捕状の却下はわずかだ。一般人が逮捕されれば、後に嫌疑なしとされてもダメージは大きい。
 基地反対運動に絡み、器物損壊容疑などで逮捕された沖縄平和運動センター議長の山城博治さんは、約5カ月も勾留された。
 「共謀罪」がなくてもこうなのである。政府に盾を突く行動に出れば捕まる―。そんな心配が広がるのは当然ではないか。
 政府が「テロ等準備罪」と宣伝してきた今回の法律の条文にはもともと「テロ」の文字がなかった。与野党の批判を受け、あわてて「テロ」を追加した。
 つまりは、政府の「印象操作」の産物である。
 ましてや、国会は数の力ばかりが横行する目を覆う惨状だ。
 そうであれば、問われるのは私たちのこれからの行動である。
 物言わぬ国民にはならない。
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北海道新聞 2017/06/16 08:55
社説:「共謀罪」法成立 国会の本分捨てたのか


 「共謀罪」の構成要件を変更しテロ等準備罪を新設する改正組織犯罪処罰法は、与党が参院の委員会採決を省略する中間報告という強硬手段に出て、徹夜国会の末に可決、成立した。
 多数決で結論を出すまでに熟議を重ね、少数意見にも耳を傾け、できる限り合意形成に努める―。国会は、その過程を何より大切にする場でなければならない。
 野党の後ろにも、主権者である国民の存在があるからだ。
 ましてや、憲法が保障する基本的人権の重大な侵害につながりかねないと批判された「共謀罪」法である。与党はそれを、議論を封じる奇策で押し切った。立法府の本分を捨てたに等しい。
 中間報告は主に、野党の委員長の下で審議が滞ったとき、与党が採決を早めるために使ってきた。それでも例外中の例外の手段だ。
 現在の参院法務委員長は与党・公明党の秋野公造氏である。本来なら中間報告などあり得まい。
 委員会の審議時間も衆院の3分の2にも達しておらず、疑問点も次々と指摘され、採決の環境にはほど遠い状況だった。
 なのに与党が強行したのは、学校法人加計(かけ)学園問題を抱え、国会を早々に閉じたいという安倍晋三首相の意向を、参院自民党が「忖度(そんたく)」したためとの見方がある。
 国権の最高機関の役割を国会が自ら否定したことにならないか。
 本来なら自民党のブレーキ役になるべき公明党にとっても、中間報告は渡りに船だったようだ。
 委員会で採決すれば秋野氏が野党議員に取り囲まれるなど混乱し、重視する東京都議選にマイナスイメージになりかねないと懸念したとされる。国民不在の選挙優先姿勢だと言わざるを得ない。
 野党側にも注文しておきたい。
 民進、共産両党は参院法務委の審議途中で金田勝年法相の問責決議案を参院に提出した。これが、「野党が審議拒否した」と与党の中間報告の口実に使われた。
 野党が不信任や問責などで審議引き延ばしを図る日程闘争は、与党の「数」に対抗するやむを得ない面もあるとはいえ、「会期」にとらわれすぎてはいまいか。
 徹底的な論戦で法案の問題点を顕在化させ、政府・与党を論破する。国会外の市民とも連携する。「共謀罪」法に限らず、これが正攻法だろう。そうでなければ、いつまでも数の力をはね返せない。
 安倍1強政治に立ち向かう国会戦術の在り方について、野党間で議論を尽くしてほしい。
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河北新報 2017年06月16日金曜日
社説:「共謀罪」法が成立/「1強」の数の横暴極まる


 「安倍1強」の強権政治が、如実に現れた結末と言えよう。数の横暴が頂点に達したという思いを強くする。
 自民、公明の与党はきのう、参院法務委員会の採決を省略するため「中間報告」という「奇策」までをも使って、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の会期内成立に突き進んだ。
 国会は法案の審議などを通じて、政府の暴走をチェックするのが責務である。中間報告は国会法で認められているとはいえ、審議の機会を事実上奪う「禁じ手」にほかならない。
 与党の参院議員は「再考の府」としての責任を放棄したに等しい。参院自らの存在を否定する「自殺行為」だ。「国会の歴史に大きな汚点を残した」(民進党)と非難の声が上がるのも当然だろう。
 なぜそんなに急ぐのか。安倍晋三首相の周辺でくすぶり続ける「疑惑」と無関係であるまい。
 安倍首相の親しい知人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の記録文書問題や、首相夫人との関係が取り沙汰された同「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題がクローズアップされてきた。
 当初は会期(18日まで)の小幅延長を検討していたとされるが、このまま延長すれば野党の追及にさらされるのは明らかだ。東京都議選(7月2日投開票)への影響も考えて、早期に幕を引きたかったのではないか。「疑惑封じ」と指摘されても仕方があるまい。
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法案は過去に3度廃案になった経緯があり、野党は「内心に踏み込み、監視社会につながる」と強く批判してきた。
 にもかかわらず、委員会での審議時間は衆院で約30時間、参院では約18時間。到底審議が尽くされたとはいえず、しかも「生煮え」だった。
 一般人が捜査の対象となるのか、組織的犯罪集団の定義とは何か、どうやって準備行為を見極めるのか-。
 国会審議では、こうした根本的な疑問に対する政府の答弁は一貫性を欠き、審議すればするほど、曖昧で不完全な法の実態が浮かび上がった。
 論議が深まらなかった最大の理由は、答弁が定まらない金田勝年法相の迷走ぶりだ。
 同じ答弁を繰り返したり、追及されると立ち往生して事務方に助け舟を求めたりして、「時間の浪費」と非難された。安倍首相の任命責任が問われよう。
 この法律で日本の刑事法の原則が変わる。国民の権利を脅かす疑念が残されたまま、運用が捜査機関に委ねられることに不安は拭えない。
 歴代の自民党政権には野党の異なる声にも耳を傾ける謙虚さがあったが、安倍政権の体質は全く違う。
 首相が執念を見せる憲法改正を展望する時、その強引な手法に懸念は募る一方だ。
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信濃毎日新聞 (2017年6月16日)
社説:共謀罪法成立 民主主義の土台が崩れる


 議会制民主主義を破壊しかねないやり方で共謀罪法が成立した。参院法務委員会での審議を与党が一方的に打ち切り、本会議での採決に持ち込んだ。
 加計学園問題での追及を避けるため、会期は延長しない。共謀罪法案は何としても成立させる―。政権の意向に従い、「中間報告」という奇策で委員会採決を省く強硬手段に出た。
 国会議員は、主権者である国民を代表する。数の力に頼んで反対意見を封じる姿勢は、立法府の存在意義を根本から損ない、国民をないがしろにするものだ。
・ 情報統制と監視強化
 どう洗い出したのかはっきりしない277もの犯罪について、計画に合意しただけで処罰を可能にする。実行行為を罰する刑法の基本原則を覆し、刑罰の枠組みそのものを押し広げる。
 内心の自由や表現の自由を脅かし、民主主義の土台を揺るがす立法だ。個人の尊厳と人権を重んじる憲法と相いれない。
 戦時下、思想・言論を弾圧した治安維持法に通じる危うさをはらんでいる。政治権力によって異論や抵抗が抑え込まれていく、息苦しい社会を再び招き寄せないか。懸念が膨らむ。
 政府が持つ広範な情報を隠し、漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法、固有の番号で個人情報を管理するマイナンバー制度…。情報を管理・統制し、監視を強化する法整備が安倍晋三政権の下で次々と進められてきた。
 改定された通信傍受法は、対象犯罪を拡大し、捜査機関への縛りを大幅に緩めた。憲法が「通信の秘密」を保障しているにもかかわらず、電話などの傍受(盗聴)が市民の活動や生活に広く及びかねない状況になっている。
 そして共謀罪によって、監視国家化は一段と進むだろう。
・ 弾圧が強まる怖さ
 まだ起きていない犯罪を取り締まるには、「危険」とみなした組織や個人の動向を常日頃からつかんでおくことが欠かせない。通信傍受のほか、室内に盗聴器を置く「会話傍受」の導入を求める動きが強まりそうだ。
 ひそかに市民の情報を収集して思想信条を調べる、協力者を送り込んで組織の内情を探る、といった公安警察的な活動を正当化する根拠にもなる。その実態を把握する仕組みはない。
 公安警察による人権侵害はこれまでも度々表面化してきた。2010年には、イスラム教徒を広範に監視していたことを示す内部資料が流出している。
 岐阜では14年、風力発電施設の建設に反対する住民らの情報を集め、事業者と対応を協議していたことが明るみに出た。警察庁は国会で「通常の業務の一環」と答弁している。住民を見張ることが警察の仕事なのか。
 市民運動を敵視するような警察の姿勢も目につく。沖縄では、米軍基地反対運動のリーダーが器物損壊などの疑いで逮捕、起訴され、5カ月も勾留された。現場で抗議行動に参加する人たちの強制排除も繰り返されている。
 共謀罪は、市民運動へのさらに厳しい弾圧につながりかねない。適用対象の「組織的犯罪集団」とは何か。何をもって合意したと判断するのか。核心部分はぼやけ、裁量の余地は広い。警察権限が歯止めなく拡大する恐れがある。
 誰か1人でも「準備行為」をすれば、合意した全員を一網打尽にできる。何が準備行為にあたるのかも曖昧だ。資金・物品の手配や下見を例示しているが、日常の行為とどう見分けるのか。
 基地建設を阻もうと座り込みを計画した人たちが、組織的な威力業務妨害の共謀罪で一掃されることさえ起こり得る。原発再稼働や公共事業への抗議を含め、政府の方針に反対する人たちが標的にされる心配がある。
・ 廃止を見据えつつ
 密告を促す規定も人を疑心暗鬼にさせるだろう。目をつけられないようにしようと人々が縮こまり、口をつぐめば、民主主義は窒息してしまう。
 共謀罪法案は2000年代に3度、廃案になっている。政府は今回、「東京五輪に向けたテロ対策」を前面に出したが、法案にその実体はない。五輪、テロという“錦の御旗”の陰で、国民を監視下に置く体制の強化が進む。
 テロを防ぐためなら仕方ない、と思い込んで、監視が強まっていくことへの警戒を怠れば、権力の暴走は止められなくなる。プライバシーの不当な侵害は、個の尊厳を脅かす。
 共謀罪が民主主義と両立しないことは明らかだ。廃止を見据えつつ、人権侵害や市民運動の弾圧につながらないよう、運用に目を光らせることが欠かせない。
 安倍首相は、9条に自衛隊を明記することを含め、20年までに改憲を目指すと表明した。権力の強化は憲法を空洞化するとともに、改憲に結びついている。政権の動きに厳しい目を注いでいかなければならない。
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[京都新聞 2017年06月16日掲載]
社説:「共謀罪」法成立  行き過ぎた運用に歯止めを


 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、委員会採決を省略する異例のかたちで可決、成立した。
 これにより、捜査機関は犯罪を実行後だけでなく、計画段階で処罰できるようになる。
 戦後民主主義の基本となる「内心の自由」を侵しかねない。適用基準が明確でなく、捜査機関が乱用する恐れがある-野党にとどまらず、多くの国民、有識者らが指摘してきた。
 政府は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するために必要だ、とするとともに、2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向けて、有効なテロ対策になると強調する。
 だが、恣意(しい)的な運用をされないか、一般市民が捜査対象にならないか、国会で質問されても、政府の説明は二転三転し、国民の不安を解消できなかった。
 この段階で、本会議採決に踏み切る必要が本当にあったのか。首をかしげざるを得ない。将来に禍根を残すのではないかとの思いが、ますます強くなってくる。
 熟議を要する案件にもかかわらず、異例の経緯をたどり、参院で可決、成立した。
 民進党など野党4党は当然、廃案を目指していた。法案を審議していた参院法務委員会で、与党が採決の兆しをみせたため、金田勝年法相への問責決議案が提出された。
・ 委員会の採決を省略
 これに対して与党は、問責決議案提出を、これ以上審議する必要がないという意味だと主張し、委員会審議を打ち切って本会議で直接採決する「中間報告」の手続きを取った。
 中間報告が、過去になかったわけではない。
 09年の臓器移植法改正案の衆院審議では、所管する厚生労働委員会で意見集約できず、本会議で中間報告ののち採決した。
 だがこれは、法案の内容が個人の死生観に深く関わり、ほとんどの政党が党議拘束を外したので、委員会採決の必要がなかった。
 今回は、審議を尽くすため、会期を延長するという選択肢もあったはずだ。与党の対応は、立法府において、委員会審議を否定する暴挙だ、といわれても仕方ないだろう。
 ここまで政府・与党が会期内の決着にこだわった背景の一つには、終盤国会での迷走がある。
 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設に関する問題では、「総理の意向」などと書かれたメールの写しを含む文書が、真偽不明のまま、「怪文書」などとして放置された。
・ 幕引き急ぐ意図あり
 文部科学省は、前事務次官や現役の職員が文書の存在を主張するに至って、ようやく追加調査に乗り出したが、対応は後手後手に回っていた。
 加えて、獣医学部新設の必要性に対しても、関係者から疑問の声が上がった。
 「共謀罪」法と、性犯罪の厳罰化を柱とする改正刑法を成立させて、なるべく早く国会を閉じ、問題の幕引きをしたいとの意図があったのは間違いない。
 もう一つの背景には、今年最大の政治決戦ともいわれる東京都議選(23日告示、7月2日投開票)が、目前に迫ってきたことが挙げられる。
 18日までの今国会会期を延長すれば、選挙戦に加計学園問題と「共謀罪」法案の両方を持ち込んでしまう。そうなれば、昨年、自民党が支援した候補を破って当選した小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」の攻勢をはねのけるのは難しい。
 所属議員が参院法務委員長を務める公明党にも、重視する都議選前に、委員会採決で混乱する姿を見せたくない気持ちがあったとされる。
 本会議採決は、党利党略でもあったようだ。
 共謀罪を新設する法案は過去3回、国会に提出されたが、「市民団体が処罰される」といった批判が相次ぎ、廃案になった。
 政府は、対象となる犯罪を676から277に絞り込んだから心配ないとする。しかし、森林法違反や刑法の墳墓発掘死体損壊などテロとの関連が薄いものも含まれており、その狙いは不可解だ。
・ 拡大解釈の可能性も
 捜査の対象となるのは、暴力団やテロ組織など「組織的犯罪集団」と規定された。2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が資金の手配などの「準備行為」をした時、計画に合意した全員が処罰される。一般市民は除外されるというが、「嫌疑が向けられた段階で一般人でなくなる」との答弁もあった。
 これでは、条文が将来、拡大解釈される可能性が残る。共謀を立証するのは難しい面があるため、捜査が肥大化する恐れもある。
 法が施行されれば、市民活動を萎縮させ、思想の自由やプライバシーを脅かす監視社会を招くかもしれない。
 行き過ぎた運用に対する確かな歯止めを、施行前に整えておくべきだ。
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神戸新聞 2017/06/16
社説:「共謀罪」成立/民主主義が脅かされている


 夜通し続いた与野党の国会攻防を経て、組織犯罪処罰法の改正案が成立した。
 過去、国民の反対で3度にわたって廃案となった共謀罪が盛り込まれた。犯罪の実行を罰する日本の刑法の原則を変え、計画(共謀)段階での摘発が可能になる。実現に向け、政府が掲げたのがテロ対策だった。
 どこまで国民の自由や権利は制約されるのか。共謀の有無をつかむ捜査や監視が、私たちの日常の会話やメールに及ぶことはないのか。国民の不安や疑念は膨らんでいる。
 政府は「一般の市民が捜査の対象になることはない」と繰り返すばかりで、納得のいく説明は聞かれないままだ。さらに自民、公明両党などは一方的に審議を打ち切り、禁じ手とされる「中間報告」で採決に持ち込んだ。暴挙と言うしかない。
 社会の根幹をなす民主主義が脅かされている。
      ◇
 成立した「共謀罪」法は犯罪を共謀するだけでなく、その準備行為がないと処罰できない。政府は捜査の対象は組織的な犯罪集団に限定されるとして、過去に廃案となった共謀罪との違いを強調した。
監視が強まる社会
 審議を重ねるにつれ、「一般市民」との線引きが曖昧になった。犯罪集団の構成員でなくても、周辺にいれば捜査の対象になる可能性がある。「捜査対象になった時点で一般市民ではない」との答弁もあった。
 確かなことはまず捜査当局が犯罪に絡んでいるか否かを調べ、認定するということだ。
 そうなると、広く会話やメールの内容を調べる必要が生じる。警察による盗聴と監視が強まる恐れがある。今後、通信傍受の対象範囲を広げるための法改正の動きが出てくることは十分に考えられる。
 その先にどんな社会が待っているのか。どんなメールの文面や電話などの会話が法に抵触するのか、疑心暗鬼になる。そんな心理が広がれば社会は萎縮へと向かう。自首と密告によって刑を軽減することを奨励する条項も盛り込まれた。何も言わない、言えない社会の姿が浮かび上がるようである。
 今回の国会審議で、国民から上がった意見の中に、良心の自由など憲法が保障する権利を記すよう求める声がある。
 しかし、政府は耳を傾けようとはしなかった。その頑迷さは「対話拒否」と言ってもいいだろう。安倍政権が強行採決した法案はいくつもある。それでも特定秘密保護法では、付帯決議で表現の自由への配慮条項が追加された。安保法制では少なくとも審議時間は予定を大きくオーバーした。今回の強行ぶりは際立っている。
 影を落とすのが、安倍晋三首相との不透明な関わりが浮き彫りになった「森友学園」と「加計(かけ)学園」の問題だ。官僚の「忖度(そんたく)」への批判と詳細な調査を求める声は強まるばかりである。
 採決を待っていたかのように、文部科学省は「総理のご意向」と記したとされる内部文書を公表した。しかも追及を避けるかのように、国会の閉会直前にである。姑息(こそく)と言われても仕方がないだろう。
 さらに公明党の意向が重なったとされる。東京都議選を前に、公明党議員が委員長を務める参議院の委員会で、採決強行の荒っぽい光景が広がるのを避けたいというものだ。
国民は蚊帳の外に
 法案の審議が深まることも、幅広い声が反映されることもなく、不安の声が上がる中、与党の数の力と奇策の「中間報告」によって法が成立した。国会の在り方が問われる事態だ。
 何より「国民が主役」であるはずなのに、その国民が蚊帳の外に置かれている。
 神戸出身で「暮しの手帖」の編集長だった花森安治さんは言った。「国家とは庶民である」。テロ対策として何が必要なのか、どこまで自由や権利は制限されていいのか。最終的に判断するのは、私たち一人一人でなければならない。
 「かつてここまで国民と国会が軽んじられた時代があっただろうか」。ノーベル賞受賞者の故湯川秀樹博士らが人道主義と平和主義に立つ有志で結成した「世界平和アピール七人委員会」が先日、発表した緊急声明に危機感がにじむ。今は写真家の大石芳野さん、作家の高村薫さんらが名を連ねる。
 この国の民主主義が岐路に立っている。広く危機感を共有し、声を上げていきたい。国民が主役の原則を守り、政治の過ちを正すために。
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中国新聞 2017/6/16
社説:「共謀罪」法成立 議論封じる暴挙許せぬ


 国民の疑問や不安に正面から向き合わず、数の力で押し切った暴挙である。与党はきのう、委員会での審議を尽くさないまま、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を参院本会議で成立させた。
 委員会採決をすっ飛ばす「中間報告」という禁じ手を使っての本会議での採決強行である。到底許すことはできない。
 ▽国民不安消えず
 衆院の審議では、不安は解消しなかった。共同通信の世論調査で「政府の説明は不十分だ」との答えは77・2%に上っている。それだけに参議院では、さらに突っ込んだ議論が求められていたはずだ。
 今回の法律のように、国民に不安や疑問があれば、提案した行政府を厳しくただす。与野党が議論を戦わせることで不安の解消に努めたり理解を促したりする。それが立法府の責任だ。三権分立の基本でもあろう。
 ところが、法務委員会での審議も採決も投げ出してしまった。言論の府の自己否定、責任放棄ではないか。
 委員会での採決を省く手法は2009年、改正臓器移植法の審議で衆参両院が用いた。各議員の死生観に関わるとして、ほとんどの党が党議拘束を外したという事情があった。
 「中間報告」の例は、ほかにもある。しかし野党議員が委員長を務めている場合が目立つ。野党の望むような委員会運営をさせないため、与党が対抗手段として使ってきた。今回、委員長は連立与党の公明党議員である。いかに異例中の異例だったのか、明らかだろう。
 ▽加計隠しの思惑
 加計学園問題での厳しい追及を避けるため、通常国会を早く閉じたい政権の思惑があったに違いない。公明党が国政選挙並みに重視する都議選を控えていることも配慮したのだろう。それを抵抗もせずに、すんなり受け入れたとしたら、参院議員は「良識の府」の名を自ら汚してしまったといえよう。
 問題点は、法律そのものにも多い。政府は20年の東京五輪を引き合いに、テロ対策に欠かせないと繰り返してきた。確かに対策は急務だろう。しかし目的を示した条文にテロ対策の文言は見当たらない。付け足しの理由との疑念は消えない。
 国際組織犯罪防止条約の締結に法整備が必要だと、政府は説明する。ただ、この条約はマフィアなどによる経済的犯罪の撲滅が本来の目的だ。締結後に法整備を進めればよいとの意見も専門家にはある。
 国際社会からも疑問が突き付けられた。国連人権理事会の下で世界各地の人権問題を調べる専門家、ケナタッチ特別報告者から「プライバシーや表現の自由を制約する恐れがある」と指摘され、「深刻な欠陥のある法案をこれだけ拙速に押し通すことは絶対に正当化できない」とまで批判された。国民の不安すら軽視するのだから、国際社会の声は無視するのだろうか。
 ▽「周辺者」は処罰
 最大の不安は、一般の人が処罰対象になるかだろう。政府は「ならない」というスタンスだが、捜査機関による恣意(しい)的な運用の恐れが指摘されている。条文には歯止め策がないからだ。戦後社会が基本としてきた内心の自由や表現の自由が損なわれる危険性は否定できない。だからこそ、同じような法案が3度も廃案になったのではないか。
 政府の答弁も揺れている。副大臣は4月に「一般の人が捜査対象にならないことはない」と述べ、後に修正した。金田勝年法相は今月、組織的犯罪集団のメンバーでなくても周辺者が処罰されることはあり得る、と明言した。周辺者かどうかの線引きが捜査機関に委ねられるのであれば、不安が解消されるはずはなかろう。
 今からでも遅くはない。政府や与党は法律の問題点、つまり国民が不安に思う点について、きちんと応えるべきだ。私たち国民もテロ対策という包装紙にごまかされていてはいけまい。監視社会への切符は要らないと訴えることが、内心や表現の自由を守るために不可欠だ。
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西日本新聞2017年06月16日 10時47分
社説:「共謀罪」法成立 憲政史上汚点残す暴挙


 市民社会を脅かしかねない法律が十分な審議を経ないまま、奇策に類する手段によって成立した。これを暴挙と言わずに何と言うのか。議会制民主主義の放棄、国民無視も甚だしい。自民、公明の与党は憲政史上、取り返しのつかない汚点を残したといえよう。
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法がきのう、参院本会議で与党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。与党は「中間報告」という手続きで参院法務委員会の採決を省き、本会議の採決を強行した。
 ●「禁じ手」の中間報告
 国会は委員会の審議と採決を経て本会議に議案を付すのが原則だ。委員会が専門的に審議し、論点を深めるのが狙いである。例外として国会法は、衆参各院が特に必要とするときは委員長らに審議の中間報告を求め、それを受ける形で本会議の審議を認めている。
 臓器移植法やその改正法で、ほとんどの党が死生観に関わるとして党議拘束を外したため、本会議で議員個々の判断に任せようと中間報告をしたのが代表例だ。
 今回は特別の事情などない。与党は改正処罰法を成立させて国会を早く閉じたいだけだ。文部科学省の再調査で「総理のご意向」文書が確認され、安倍晋三首相が矢面に立つ学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題で野党の追及を避けたかったのだろう。
 公明党が重視する東京都議選の告示も23日に迫っており、18日に会期末を迎える今国会は延長せず閉じるに越したことはない。いわば「禁じ手」の中間報告による採決強行は、首相と与党の事情を優先した結果である。
 衆参両院で単独過半数を占める巨大与党の「自民1強」に支えられ、首相の在任日数が戦後3位(第1次政権を含む)になった長期政権だからこそ成し得た強権的な政治ともいえるだろう。
 今回の「共謀罪」法成立が、いわば1強政治の頂点となるのか、それとも、首相が悲願とする憲法改正へつながる潮流となるかは、なお予断を許さない。
 政府は「東京五輪に備えたテロ対策」「組織犯罪防止の国際条約締結のため」と主張した。テロ対策や国際条約と言えば国民の理解が得やすいと考えたのだろう。
 対象犯罪は277もあり、テロと無関係と思われる森林法や商標法などを含む。条約はマフィアなどの経済犯罪防止が目的で、現行法で締結可能との指摘もある。
 結局、政府から明解な説明はなかった。いくら「テロ対策」と力説したところで改正法は実質的に国民や野党の反発を浴びて過去3回も廃案になった共謀罪の焼き直しにすぎなかったことを物語る。
 多くの人は「テロや組織犯罪とは無関係な市民に影響はない」と考えるだろう。だが金田勝年法相らは「一般の団体が組織的犯罪集団に一変した場合に構成員は一般の方々でなくなる」と答弁した。
 一般の団体がいつ組織的犯罪集団に変わるか、捜査当局の市民監視は強化されるだろう。しかも組織的犯罪集団の定義は明確でない。法相は「組織的犯罪集団の構成員でないと、犯罪が成立しないわけではない」とも語った。捜査対象は当局の恣意(しい)的判断でいくらでも拡大する。
 ●権力の暴走を許さず
 安倍政権は、国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法に続いて、市民社会を萎縮させかねない今回の改正法も強引に押し通した。野党の反対、国民の不安、専門家の懸念を「数の力」で一蹴する政治手法は共通する。
 しかし、このまま市民が縮こまってしまってはいけない。国家権力や捜査当局がどんなことをしようとしているのか、逆に私たち市民は監視していく必要がある。
 2003年の鹿児島県議選で公選法違反に問われた12人全員の無罪が確定した志布志事件、16年の参院選で大分県警別府署員が野党の支援団体が入る建物の敷地に隠しカメラを設置した事件など不正捜査や冤罪(えんざい)事件は後を絶たない。
 国家権力や捜査当局の暴走を許してはならない。憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の三大原理をよりどころに、物言う市民であり続けたい。また私たちは、そんな市民を支え、守るメディアであり続けたいと思う。
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